BIMの課題と可能性・175/樋口一希/ダッソー・システムズと建築・4

2017年5月25日 トップニュース

文字サイズ

 シンガポールにおける「スマート・ネーション構想(Singapore’s ’Smart Nation’)」と「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」を構築する基盤となったダッソー・システムズ(Dassault Systemes)の「3DEXPERIENCEプラットフォーム」について概説する。


 □12の産業分野にデジタル・ソリューションを提供する「3DEXPERIENCEプラットフォーム」□


 ダッソー・システムズでは、公式サイト上で3DEXPERIENCEプラットフォームを「マーケティングから販売、エンジニアリングに至るまで、会社のあらゆる組織にソフトウエア・ソリューションを提供し、価値創造プロセスで消費者のエクスペリエンスを差別化することができるビジネス・エクスペリエンス・プラットフォーム」と定義している。

 プラットフォーム上には、主要なアプリケーションとしてSocial & Collaboration、3D Modeling、Simulation、Imformation Intelligenceが展開されており、それらは関連しながらクラウドベースでリアルタイムに駆動する。対応業種は、「建築・建設」に加えて自動車・輸送機械、金融・ビジネスサービス、産業機械、ハイテク、航空宇宙・防衛など全12分野に及ぶ。

 建築分野では製造業向け3次元CADに出自をもつ「CATIA」のベンダーとしてダッソー・システムズは知られ、建築家フランク・ゲーリー(Frank Gehry)との提携を強化する中でCATIAの建築分野への積極的な援用を目的にゲーリー・テクノロジーズ(Gehry Technologies)の設立に参画したことでも注目を集めた。


 □製造業のデジタル運用(工業化)のノウハウの建築への援用を再検討する好機が到来した□


 ダッソー・システムズでは、自動車産業など製造業での3DEXPERIENCEプラットフォームの成功事例をベースに、計画から設計・施工・施設管理に至るまで「建築生産の全行程の工業化」を積極的に提案しており、そのための中核的技術としてBIMなど3次元モデルのデジタル運用を提唱している。

 繰り返し検証したように、多くの場合、一品生産である建築物と大量生産を前提とした自動車などの製造業ではデジタル運用(工業化)の内実が異なっている。一方で、一品生産の建築物でも標準化、共通化できる部分があり、プレキャストコンクリートに見られるように既製品化も進行している。

 BIMが普及する中で、情報のデジタル化によって工程の高度な見える化が進行し、業務の信頼性、安全性、予測可能性、生産性の向上において成果が生まれつつある。その意味では、製造業の工業化ノウハウを「業としての建築」の工業化にいかに援用するかの再検討を行う好機が到来したに違いない。


 □トヨタ方式など「建築生産を工業化するため製造業から学ぶ五つのノウハウ・ステップ」□


 公式サイト「建築・建設の工業化」チャプター02では、次の五つのステップが提唱されている。

 1.作業の分離=熟練職人の現場作業を施工順序に基づいて細分化し、非熟練労働者によって建設が行えるワークパッケージを作成。

 2.Externalizing Work(R)(工場内生産)=プレハブ化のプロセスと手法を活用。

 3.統計的プロセス制御(Statistical process control)の適用=製造工程を視覚的に監視する手法の適用。製造工程の途中で標本を集め、データを採取し、バラツキを減少させる。

 4.リーン(無駄のない)・プロセス設計の適用による作業効率の改善=本稿「海外のBIM事情・3」で報告したトヨタの生産方式を参考にしたlean constructionの採用。

 5.3Dモデリング、シミュレーション、フィードバックの適用=3次元モデルを中核にして工程全般および建物のライフサイクルを管理。

 6月6、7の両日、ザ・プリンス パークタワー東京で「3DEXPERIENCE FORUM Japan 2017」が開催される。ダッソー・システムズの提案の実際を知るよい機会となるだろう。申し込みは公式ブログから。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)