BIMのその先を目指して・1/樋口一希/動的にメディア化する建物

2017年7月11日 トップニュース

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 「BIMは離陸して巡航高度に達した。まだシートベルトは外せないのだが」との現状認識を基に、社会全般の急速なデジタル化との関わりも探るべく、連載「BIMのその先を目指して-建築のデジタル化の未来を探求」を開始する。


 □デジタル化した社会関係やネットワークも設計するスキルが求められ建物も動産化していく□


 BIMなどのデジタルツールによって「創る」=設計から「建てる」=施工へと至る業務プロセスは大きく変容しつつある。「Connected CarからConnected Building」+「Internet of ThingsからInternet of Buildings」へとラジカルな変化が建築にも押し寄せる中で、設計には、リアルな建物を「創る」とともに、デジタル化した社会関係や情報通信ネットワークも設計するスキルが求められている。完成後の建物も、ネットワークで接続されたデジタル機器の集合体となり、ダイナミックに稼働する。従来、不動産として認識された建物も、建物自体のメディア化などによって動産化ともいえる変貌を見せつつある。

 初回は、IoT(Internet of Things)技術を援用したオフィスビルの階段利用を促進する新技術を紹介する。


 □デッドスペースの階段をデジタル・サイネージ(Digital Signage)でメディアとして動的に運用□


 オフィスビルでの移動は、エレベータが主体で、階段はデッドスペースの最たるものだ。健康オフィス創りに向けた商品化を検討していた博報堂と竹中工務店は、オフィスワーカーの生活習慣病予防に向けた運動不足解消の取り組みとして、オフィス内の階段利用を促進する技術開発に着手した。

 デジタル・サイネージに「階段を昇ることがつい楽しくなる映像」を投影する新開発技術「ta-tta-tta(タッタッタ)」。階段に設置されたIoTセンサーと個人のタグが連動、利用履歴に応じて階段を昇っているタイミングに合わせて毎回変化する映像を投影することで、階段利用のモチベーションを高めるのを狙いとしている。


 □実証実験で映像投影期間に階段利用量が26・1%伸びて「同僚と話す機会が増えた」も顕著□


 竹中工務店では、東京本社内で実証実験を行い、映像投影前の1週間と比較して映像投影期間(3週間)では階段利用量が26・1%増加したとの結果を得た。評価が大きく伸びた項目は「同僚と話す機会が増えた」「やりとげた気持ちになる」。「昇った高さでポイントがたまりインセンティブ(健康飲料など)がもらえると、さらに昇ろうという気になる」も高い評価となった。

 階段利用では、一般に平静時の4~8・8倍のエネルギー消費があるとされる。両社では、健康オフィス創りのソリューションとして階段に映像投影などを行う技術の実用化に向けた開発を18年までに完成させる予定で、映像投影や運用システムに関する異業種企業との連携を積極的に深めて19年には商品化することを目指している。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)