BIMの課題と可能性・9/樋口一希/組織設計事務所のBIM運用・2

2014年3月20日 トップニュース

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 BIMソフト運用メリットの「見える化」が見えてきた。「見える化」をキーワードに設計事例も交えて組織設計事務所としての日建設計のBIM運用を紹介する。


 □クライアント・建築内部・設計者自身へと広範囲に及ぶ「見える化」のメリット□

 クライアントへの「見える化」。BIMソフトで3次元モデルを構築すれば、鳥のような視線で建物全体を見渡せるし、内部に入り、歩き回ったり、任意の場所で輪切りにもできる。建築の素人のクライアントには2次元の図面は建築内部だけの「符牒」。手描きパースを見せ、模型で説明し、プレゼンしてきたが、BIMソフトによる「見える化」は圧倒的な訴求力をもつ。

 建築内部の「見える化」。設計組織では意匠、構造、設備を横断してBIMソフトによる3次元モデルを使い倒せるし、一定条件下、施工、施設管理まで援用できる。

 設計組織=設計者自身の「見える化」。建築の3次元モデルの構築に優れた能力を発揮するBIMソフトは、設計者を強くインスパイアする。

 BIMソフトは単なるツールではない。見えないもの、見えにくいものをシミュレーションなどによって「見える化」することで、異なる立場の組織、関係者間のコミュニケーションを円滑にし、合意形成の「質量」を劇的に向上させるデジタル・メディアだ。


 □「見える化した建物=形」をあらかじめ構築することで設計の射程距離を伸ばす□

 2011年度の日本建築家協会・日本建築大賞を受賞した「ホキ美術館」(千葉市緑区)。敷地形状・条件、容積率などの法的規制、クライアントの思い描く美術館へのこだわりを「見える化した建物=形」をみればわかるように、この美術館はBIMソフトなしには成立しなかった。クライアントへの「見える化」としても2次元図面、スケッチ、模型も用いたが、BIMソフトによるプレゼンテーションが最も効果的だったのは想像に難くない。

 LED(発光ダイオード)による展示照明。厳密な照度計算、シミュレーションを経て、LEDは天井にアトランダム(であるかのよう)に設けられた「穴」を通して絵画作品を照らしている。この照明方式はBIMソフトによる3次元データなくしては、クライアント、設計組織内部そして施工者の誰もが正確に把握できなかったはずだ。

 「見える化」の最たるものであると同時に、建設業の川上に位置する設計事務所がBIMソフトを用いて、(施工というと誤解があるので)ファブリケーションにまで職能の射程を伸ばしたともいえる。


 □BIMソフトによるシミュレーションで竣工後の経年変化=時間の「見える化」を実現□

 その名の通り無垢の木材が暖かみを感じさせる「木材会館」(東京都江東区)。

 打ち放しコンクリート表面には木製型枠の木目の転写に加えて、色移りも意図した。建物本体の木材は時間と共に、色合いが変化していく。コンクリートと木材は経年変化の中で、どのように調和していくのか。

 建物の竣工時を目指す設計から、竣工後、建物がどのように経年変化し、社会や人々に語りかけるのかまで俯瞰する設計。エイジング・ストーリーをシミュレーションし、事前に体感する。BIMソフトでは時間のシミュレーション=「時間の見える化」が可能となる。

 次回は組織設計事務所としての日建設計の「これから」について報告する。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)