BIMのその先を目指して・29/樋口一希/融合領域で起こっている変化

2017年11月9日 トップニュース

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「BIMのその先を目指して」探索を続ける中で開催された二つのイベントを通して建築とコンピュータの融合領域で起こっている今日的な動向について報告する。

□「建築からの融合領域」にとっても示唆的であった自動運転に向けた技術革新の方向性□

「Archi Future 2017-建築からの融合領域を考える」が10月27日に有明(東京都江東区)のTFTホールで開催された。ウェブ申し込みが早期に満席となり、来場者はこれまで最高の4687人を数え、前回比で3・5%の増加となったとのことだ。
講演会、セミナー、テクニカルフォーラムの題目を見るだけでも「建築からの融合領域」で起こっている変化を感得できるものだった。セミナーでは、21年完成予定のジョージ・ルーカス博物館などで世界的に著名な中国の設計事務所、MAD Architectsのアーキテクトが基調講演を行った。「移動の未来が生み出す、新しい建築・都市像」で語られた自動運転に向けた技術革新の方向性は「建築からの融合領域」にとっても示唆的であった。

□コンピュテーショナル・デザインの実物件への適用事例を通して新たな職能の可能性も生まれる□

実務との関連で「BIMのその先を」実感できるテーマも散見できた。「デジタル・コンストラクション-設計・生産・施工の連携から融合のイノベーション」では、設計事務所、ゼネコン、建材メーカーのBIM担当者がデジタル(バーチャル)化された建物情報を施工でのリアルな製造(製作)へと連続する際の課題と可能性について論じた。
「プログラミングを用いた設計手法・建築生産の可能性と未来」では、コンピュテーショナル・デザイン(Computational Design)の実物件への適用事例を通して、新たな職能の登場が示唆された。
「BIMは離陸して巡航高度に達した。シートベルトを外すサインは出ていないが…」。BIM主導役の旧知のベテランだけでなく若手の参加者が目立っていた。BIMは2次元CAD普及期よりも速度を上げて普及の端緒についたといえる。
一方で、既存の業務形態でよいとする勢力もある中、BIM運用への走り疲れもあるのではないか。踊り場感からBIM=3次元の運用を諦め、2次元(図面)に戻ってしまう危険性も感じる。次への疾走に備えて、じっくりと身を屈めて腰だめするのもよいだろう。

□LTEネットワークの普及を受けて主要国での無線システムによるパブリック・セーフティが成長□

11月2日、フィンランド大使館においてノキア主催の「仙台市との連携協定及びパブリック・セーフティの市場動向・ソリューション」に関する記者発表があった。
背景には、LTEネットワークの進化、普及を受けて米国、英国などの主要国での無線システムを利用したパブリック・セーフティの急速な成長がある。ノキアと仙台市はICTを用いた街づくりと地域活性化を目的とする協定を締結、その中核をなすのが仙台市における防災、減災へのICTの利活用だ。
BIMによる単独の3次元建物モデルは、複数の建物モデルが集合する街区や都市レベルでの大規模空間へと統合され、BIM:CIM:GISの融合に向かっている。BIM:CIM:GISの融合を通して防災、減災へのICTの利活用を加速化するのは「BIMの先へ」と向けた今日的な課題だ。

□通信インフラ施設・無線技術を中心とする開発ベンダーと広く建築の協働機会も増加に向かう□

ノキアでは、日本を含むアジア5カ国でパブリック・セーフティのモバイルブロードバンド化の将来性を調査している。それによると、東日本大震のような経験から、より高性能なセキュリティサービスへの需要が増加しているが、複雑なエコシステム、予算化の困難さなどからLTEベースのパブリック・セーフティの検討・導入が他国ほど活発に進んでいない。LTE通信技術を駆使したパブリック・セーフティシステムを採用することで、センサー、映像ストリーム、IoTを最適なコストで活用することができ、グローバルに標準化されたLTEテクノロジーによって、国際的な連携も可能だ。Connected Carへの革新に合わせてConnected Buildingが想起できる状況下、今後は、ノキアのような通信インフラ施設・無線技術を中心とする開発ベンダーと広く建築の協働機会も増えるに違いない。
〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)