転職市場から見える建設業の未来・4/リクルートキャリア

2017年12月5日 トップニュース

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 ◇育児との両立を望む女性技術者たち
 リクルートキャリアが、建設業界の転職市場のトレンドを全6回で紹介。第4回は、「女性の活用」をテーマに、女性建築技術者が職場に望むこと、育児と両立できる制度・環境整備などについて伝える。
 近年、育児中の建築技術者の女性からの転職相談が増えている。ほとんどが有資格者であり、ハイキャリアの30代女性だ。仕事にやりがいを感じ、キャリアを磨いていきたいという意識が強いからこそ、仕事と育児の両立を図ろうとしている。しかし、現在の職場ではそれが叶わないため、転職の道を探っているのだ。共通しているのは「概ね18時~19時までに保育園にお迎えに行ける時間内で働きたい」という希望であり、背景には「育休復帰した後の働き方が不安」「現職では時短勤務制度を利用できるのが3歳まで」「毎日定時退社しているが、同僚の視線が冷たくいたたまれない」といった悩みがあり、その声は最早悲鳴に近い。
 また、「出産後に退職して派遣やアルバイトで働いているが、やはり社員として責任とやりがいがある仕事に復帰したい」という女性もいる。彼女らの意思に共通するのは「育児に手がかかる数年間だけは融通を利かせてほしい。その時期を越えればまたバリバリと働きたい」というものだ。つまり企業側としては、ほんの数年間、育児と仕事とを両立しやすい環境を提供すれば、ポテンシャルが高い女性に長く活躍してもらえるというわけだ。
 企業側が、こうした女性たちのニーズに応える方法は複数ある。建設業では、上記の希望に対し「定時18時」が壁になることが多い。ある会社では、勤務開始・終了時間ともにフレックスタイム制を導入し、育児中の女性が早朝から勤務し、夕方早い時間に退社して保育園のお迎えに行けるようにした。また、「入社当初から時短勤務OK」とする求人は、我々のもとに寄せられている全求人票の中でも1%ほどしかないため、転職希望者の目に留まりやすい。また、レアケースだが、ある企業では非常に優秀な女性が夫の転勤に付いて地方に移住しなければならなくなった際、在宅ワークの環境を整え、勤務を継続できるようにした。近年、さまざまな業種でリモートワーク制度が導入されており、在宅勤務をサポートするツールも充実してきた。仕事内容によっては、そうしたツールを活用するなどして週何日かの在宅勤務を認めることも、人材採用には効果が期待できる。しかし実際には、ほんの少しの融通を利かせられないことで優秀な女性人材に去られてしまっている企業が多く、非常にもったいないと感じる。
 勤務時間・場所の柔軟性を高めるだけでなく、時短勤務でも対応できる業務を切り出し、それを育児中の女性に任せている企業もある。例えば、従来は施工管理職が行っていた「引き渡し」、あるいは営業に同行して技術観点から説明・プレゼンする営業サポート職など、昼間の時間帯でできる業務を時短勤務女性に任せ、運用に成功している企業もある。
 育児中、あるいはこれから出産を迎える女性が無理なく働ける制度を整えるのが先決。しかし制度整備だけでは足りない。当事者の女性を「孤立させない」環境づくりも重要だ。制度を整えても、現場の男性たちに理解がなく、制度を使いづらいようでは意味がない。
 他業種では、「女性を甘やかす」のではなく、「会社の成長のための人材戦略」であることを男性上司たちに啓蒙し、意識改革を成功させているケースが見られる。
 部署を越えて女性社員同士がつながる、あるいは他社の同職種の女性同士がつながるようなコミュニティを活用するのも有効だ。女性たちが課題や悩みを共有し、情報交換できる場を提供する-。そうしたサポートにも取り組む企業が増えることを願っている。
 〈建設不動産業界専任キャリアアドバイザー・箕輪真人〉(毎週火曜日掲載)