転職市場から見える建設業の未来・5/リクルートキャリア

2017年12月12日 トップニュース

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 ◇採用成功の秘訣は「ビジョン」の一致
 リクルートキャリアが、建設業界の転職市場のトレンドを全6回で紹介。第5回のテーマは「ビジョナリー転職」。企業が応募者や既存社員に発信すべきメッセージについて伝えたい。
 現在、建設技術者の有効求人倍率はずば抜けて高く、リクルートキャリアにおいても、1人に対し5社の求人がある状況。まさに「争奪戦」の様相を呈している。
 そうした環境の中、求職者に選ばれるための努力をしている企業と、自社の都合だけで選考をしている企業と、二極化が進んでいると感じる。今、建設技術者に選ばれているのは大手とは限らない。中小規模で、しかも労働環境や待遇がいいといえない企業でも、希望通りの人材を獲得できているケースもある。採用成功のキーワードは「ビジョンの一致」だ。
 我々転職エージェントに相談に訪れる建設技術者の多くは、「労働環境を改善したい」「収入を上げたい」「休暇を増やしたい」といった希望を語る。しかし我々は、目先の問題だけを解消しても、中長期的な満足にはつながらないと考えている。10年先、20年先、さらにその先に自分はどうなっていたいのか-。自身が理想とする将来ビジョンを描き、それを叶えられるステージを見つけるお手伝いをすることを重視している。
 転職相談に訪れる時点で、将来のマーケット状況や自身のキャリアの価値を描けている人はほとんどいない。しかしキャリアアドバイザーとの対話を通じ、それぞれに大切にしたい想いや価値観が浮かび上がってくる。結果、条件や待遇以上に、自身の「将来ビジョン」に合うかどうかを重視して転職先を選ぶ人は少なくない。
 我々との対話だけでなく、企業との面接を通じて、自身の心の奥にある想いに気付く人も多い。大手不動産会社で数万戸の賃貸物件、額にして年間数十億円規模の管理を手がけてきたAさんの場合、評価制度と収入に不満を抱き、転職活動を開始した。その結果、Aさんは大手2社からの内定を断り、40人規模のベンチャーB社に入社を決めている。B社の社長は面接で、自社の過去の失敗も成功も伝え、20年先に目指す姿を語った。そして「今、あなたの経験がどうしても必要だ。当社の経営陣がどんなことを考えているかを体験して判断してほしい」と、経営会議にAさんを招いた。
 半日かけて経営陣の議論を見たAさんは、「自分の価値を最大限発揮できるのはここだ」「この会社の夢の実現に貢献したい」と入社を決めたのだった。
 つまり、企業側が行うべきは、自社の都合だけで選考するのではなく、応募者の想いやビジョンに寄り添うということ。面接でいきなり「自己アピールしてください。それでジャッジします」ではなく、まず自社の事業理念や想い、将来ビジョンを伝えるということだ。その上で、応募者がこの転職によってどう成長したいのか、仕事において何を実現したいのかに耳を傾ける。この過程を経て、企業が目指す方向性と応募者が目指す方向性が一致すれば、条件や待遇に関わりなく、応募者は入社を決める。
 会社の理念やビジョンはホームページで語られているが、その多くは求職者にとっては抽象的にも見える。しかし生の声で、「相手に合わせて」メッセージを伝えることで、心を動かすことができる。企業の「本気」を伝えるために、中堅以上の企業の役員が土日に面接を行うケースも増えてきた。また、そうした経営ビジョン、社員の成長に対するビジョンは、外向きには語られているものの、社内には伝わっていないケースも多い。既存社員に対しても改めてメッセージを言語化して届けることで、定着率アップにもつながるはずだ。
〈建設不動産業専任キャリアアドバイザー・平野竜太郎、箕輪真人〉
(毎週火曜掲載)