BIMのその先を目指して・43/樋口一希/富士山世界遺産センター・2

2018年3月8日 トップニュース

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 逆円すい形の3次元曲面の木格子が印象的な静岡県富士山世界遺産センター。佐藤工業を中心とする施工者がBIMなどのデジタルツールを用いて発注者である静岡県の思いと建築家、坂茂氏が紡いだストーリーをどのようにして具現化したのかを検証する。建築家がBIMについて語る機会が少ない中、後工程の施工、製造のフェーズから優れて作品性の高い建物へとBIM援用を逆照射する貴重な事例となった。

 □設計BIMモデルを解析・検証して施工から製造BIMモデルへと最適化するリ・モデリングを実施□

 「創る」=設計BIMから「建てる」=施工BIMを経て先端的なデジタル・ファブリケーションによる「造るBIM」=製造BIMの実現には、建築と製造という、似て非なる領域を架橋するノウハウが求められる。
 設計者(坂茂建築設計)は、設計BIMモデルは作成するが施工+製造BIMモデルは作成しない。そのため設計BIMモデルを細部まで解析、検証し、部材の製造や施工工程まで想定した製造BIMモデルを事前に作成(抽出・変換)する必要がある。
 BIMコンサルタントとしてプロジェクトに参画したシンテグレートは、木格子の設計BIMモデルをジオメトリー分析し、基本サーフェス・モデルとしてリ・モデリングした。リ・モデリングとしたのは、製造、施工工程まで最適化してBIMモデルを再度、作成したからだ。

 □製造BIMモデルを基にひねりなど複雑で自由な加工を可能にする3次元加工機であらかじめプレカット□

 木格子には、静岡県産の「FUJI HINOKI MADE(フジヒノキメイド)」の無垢(むく)材を使用、設計仕上げ寸法120角で、曲率、ひねり、長さなどの形状が個々に異なる約7000ピースの部材によって構成されている。
 シンテグレートは、坂茂建築設計がRhinocerosで作成した木格子の設計BIMモデルを基に、木構造加工業者のシェルターと協働して、どんな形状の部材を製造し、どのようにして現場で組み上げて施工できるのかを解析した。その結果、異なる形状の約3500種類の木格子部材モデルを作成、施工効率も考慮し、各モデルには施工手順に沿って番号も割り振った。実際に製造された部材は、最短10センチ、最長3メートルで、組み上げ時の交点は、角度が異なる形状が約7000カ所現出した。
 このようにして作成された製造BIMモデルは、シェルターに提供され、全部材が3次元プレカットされた。プレカットには、ひねりなど複雑で自由な加工を可能にする3次元加工機と制御する最新の設計・加工アプリケーションが使用された。

 □施工前に実部材でモックアップ検証しガイド材で位置決めをしてから下地鉄骨に固定する施工法採用□

 設計仕上がり寸法は120角だが、内外を遮断するガラスの外側と内側では仕上げも異なる。外側では、無垢材の表面に超耐候性木材保護剤を2回塗布するのに加えて、逆円すいは上に向かって反り上がる=円形から楕円(だえん)形に変容し曲面もねじれて広がっていくため、その余剰(削減)分を考慮して140角から120角の角材を削り出している。
 内側は内装材として不燃性が要求されるので90角の角材の4面に不燃注入加工を施した厚み30の板材を貼り、150角の角材とした上で120角の角材に削り出している。
 実部材で施工する前には現場でモックアップを作成し、多様多岐にわたる形状の部材の組み上げ方、留め方から塗装の方法、施工性の検証などを行っている。その結果、3センチ×4センチのガイド材を用いて位置決めをしてから下地鉄骨に固定する施工方法を採用、3カ月程度で組み上げを実現した。
 施工・製造BIMモデルが正確で座標系も明らかでも、現場作業はマニュファクチャーなので誤差は発生する。木格子の組み上げ時には組み上げた部材をばらすなどの手戻りも発生した。関係者間の協働によって新たな解決策への期待も高まった。木格子の取り付け壁面をレーザースキャナーで読み取り3次元データ化し、施工・製造BIMモデルをデジタル空間上で取り付け、事前適合させるなどの方法だ。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)