BIMのその先を目指して・47/樋口一希/ビル風を可視化する熊谷組のVR技術

2018年4月5日 トップニュース

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 工程最上流の企画立案段階での建築主へのプレゼンテーション、設計段階での技術支援から施工現場での合意形成や安全管理まで建築分野においてVirtual Reality(VR)技術の応用範囲が広範な拡がりをみせている。熊谷組ではVR技術によって目に見えないビル風を立体的に可視化するシステムを開発した。

 □流体解析とVR技術を組み合わせることで目に見えない3次元の風の挙動をVR空間上で可視化□

 図1は、熊谷組の本社周辺のビル風の挙動を解析してVRにより可視化したもの。建物周辺を流れる複雑なビル風を動的、視覚的に捉えることに成功している。
 建築物の竣工に伴い発生するビル風は、現況実測に基づく風洞実験や流体解析システムによるシミュレーションによって事前に評価され対策が講じられていた。一方で空間の高度利用や多様なニーズの高まりの中で、3次元空間上を複雑に挙動するビル風の流れを正確かつ経時的に捉えるのは益々、困難となっていた。
 今回開発された技術は、既知の流体解析とVR技術を組み合わせることによって、目に見えない3次元の風の挙動をVR空間上でリアルに可視化するもので、従来の手法と比較してビル風の原因をより容易かつ正確に把握することが可能となり、設計品質や居住環境性能の向上が期待できる。
 システム本体は、流体解析とVRアプリケーション作成の二つの要素から構成されている。「流体解析」部分では、解析結果で得られた風速や風向のデータを指定のフォーマットで出力し、「VRアプリケーション作成」部分では、解析データと建物周辺の3次元モデルを用いてVR空間で風の流れを可視化するアプリケーションを作成する。アプリケーション作成のプラットフォームには、Unityを使用し、画像を投影する端末機にはGear VRを採用している。

 □建築分野での3次元表現の高度化を進めるためゲーム分野との業態横断的な人的交流の必要性高まる□

 Unity(別名・Unity 3D)は、複数のプラットフォームに対応する統合開発環境内蔵のゲームエンジンでユニティ・テクノロジーズ(日本法人=ユニティテクノロジーズジャパン)が開発したもの。主にWEBシステムのプラグイン、デスクトップPC用のゲーム機、携帯機器向けゲーム開発向けに用いられている。
 Gear VRは、VR体験ができるヘッドマウントディスプレー。ゲーム機用のヘッドマウントディスプレー(Oculus Rift)で知られるOculus社とスマホのGalaxyシリーズのサムスン社が共同開発したもの。
 今後は、建築分野での3次元表現の高度化を更に進めるために、本事例のようにゲーム分野のプラットフォームを援用するシステム開発とともに、業態横断的な人的交流の必要性も高まるに違いない。
 〈参考〉建築設計・エンジニアリング・建設業向けのUnity関連サイト(https://store.unity.com/ja/industries/aec

 □流体解析ソフトに依存せずVRでの可視化が可能でGear VRを用いるためコストパフォーマンスも高い□

 本システムの優位性は特別なハード・ソフトを用いることなく、高度なVR環境を構築できることだ。「流体解析」と「VRアプリケーション作成」の要素がそれぞれ独立して稼働するので流体解析ソフトウエアの種類などに依存せずVRによる可視化が可能だ。 
 Androidのスマートフォンで動作する市販のGear VRを用いるためコストパフォーマンスにも優れ、専用の端末機が不要なために持ち運びも容易で、オフィスから遠く離れた遠隔地でのプレゼンテーションや打ち合わせへの対応ができる。
 運用時の最大のメリットは、VRアプリケーションをLAN上で稼働させることでGear VRを装着した複数の人たちが同時に同一空間を歩き回りながらビル風のシミュレーションを体感できる点だ。これによって3次元空間でのシミュレーション援用による関係者間での合意形成の高度化が現実のものとなる。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)