BIMのその先を目指して・50/樋口一希/グローバルBIM社の現況を追う・2

2018年4月26日 トップニュース

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 17年10月発表のGlobal BIM社の経営統合のニュースリリースには「将来的には日本版IPD(Integrated Project Delivery=統合プロジェクト推進)の先進企業としてBIMノウハウを提供」と明示されている。BIMの全現場導入を達成したGB社が次なるランドマークとして射程に捉えた日本版IPDについて概説する。

 □建築主・設計者・施工者の協働で建設業のビジネスモデルを革新するポテンシャルを持つIPD□

 IPDは米国の建設業界を出自とするビジネスモデルで、建築主、設計者、施工者などプロジェクト関係者が工程全般にわたり最適な建物を建てるという共通目標の下、最も有効な施策を追求する協業形態。フロントローディングとコーディネーション(整合調整)による工期、品質、生産性、コストなどの価値の最大化、適正な進捗(しんちょく)管理によるリスクと成果の共有を追求するもので、中核に位置付けられるのがBIMなどデジタル運用のノウハウだ。
 アメリカ建築家協会(AIA=American Institute of Architects)では2007年に「IPDガイド」(※)、08年には「IPD契約約款」を公表、内容を精読すると建築主・設計者・施工者の3者が契約約款を作成する際の要求条件が明記されている。
 建設業では工程初期に設計者、その後に施工者が決定される。施工者を早期に決定するデザインビルド方式や設計・施工一貫方式であっても、関係者間の協働は契約行為までには及ばない。米国では建築主、わが国では施工者がリスク負担するなど契約にまつわる環境は異なるが、建築主、設計者、施工者の3者間契約によってリスクを分散、成果を共有するIPDは、共に建設業のビジネスモデルを革新するポテンシャルを秘めている。
 ※「Integrated Project Delivery:A Guide」 AIA National - AIA California Council, May, 2007
 https://info.aia.org/SiteObjects/files/IPD_Guide_2007.pdf

 □全現場のBIM運用による実利の見える化をベースに工程最上流の建築主との協働にも着手□

 建設業におけるイノベーションへの期待とともに関心を集めるIPDだが、学際的、理論的に語られることが多かった。GB社が日本版IPDを掲げるに至った最大の要点は全現場でのBIM運用を実現した優位性にある。
 建設業にとって最も重要な生産拠点である施工現場ではリアルに「人と物と時間」が挙動する。リアルに数量が分かればコストが分かるし、コストが分かれば利益も分かる。時間軸を測定すれば逐次的かつリアルタイムでも事業性を把握できる。GB社では施工現場におけるBIMなどのデジタル運用によって実利を確保できる体制を確立したことによって、工程最上流の建築主との協働も射程に納めつつある。
 GB社ではすでに建築主の代表格でもある大手デベロッパーとの日本版IPD的協働を検討し始めた。BIMなどのデジタル運用は建設業内部から脱して建築主との協働という新たな局面へと波及、展開されつつある。

 □膨大なBIMモデルをビッグデータとして用いるAI稼働+IoT援用で物流の最適化も視野に□

 全現場でのBIM運用で蓄積した膨大なデータをビッグデータとして「ディープラーニング」を用いてAIに学習させ、施工現場を支援する「施工AIシステム」の開発や基盤となるプラットフォーム構築も三菱総合研究所と継続している。
 事前に複数の施工計画を立案し、工期、コスト、人員配置、工区割りなどのあらゆる局面から検討できればよいが、多忙な施工現場では困難を伴う。「施工AIシステム」は、それらの課題解決を通じて、現場所長などの支援役として稼働することになるだろう。
 IoTについては、安価となったICタグなどを活用して施工現場での物流の最適化も想定している。施工BIMモデルと使用する建設部材の位置・メーカー・在庫・価格情報などを関連付けることで、物資調達の効率化、搬入車両のアイドルタイムの削減などが可能となる。GB社では、全現場へのBIM導入の実績を基底として、今後の建設業界の基盤となる総合プラットフォームの市場提供とデジタル・スマートシティーなど「建築とコンピューターの近未来」への探求を続けている。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)