BIMの課題と可能性・30/樋口一希/組織論としてのBIM運用・1

2014年8月28日 トップニュース

文字サイズ

 千都建築設計事務所(千葉市美浜区)は1級建築士をはじめ、建築技術者総勢55人からなる。2012年7月から約2年間をかけて計画的かつ戦略的にBIM運用の「課題と可能性」を追求している。


 □BIMチーム5人でスタートした「組織論としてのBIM」への挑戦は実物件への援用に結実□

 2次元CADの普及期と同様、BIM=デジタルツール利用の有効性を実体化するためには、設計者1人に1台(システム)の環境を構築することが必須だ。

 導入コストもかかるので経営陣の理解に加えて、設計者自身がBIMの有効性を実感し、それを組織内での共通認識とする必要がある。5人でスタートしたBIM導入の試みは、本格的に取り組めば約半年で実施設計まで利用できるとのBIM運用の実証結果を得るに至り、既に複数の実物件へのBIM運用を実現している。


 □BIM使いの設計者を増やすという数の論理+得意分野を担当パートとして活かす戦略も採用□

 現在、BIMチームは、BIM普及の加速化のターニングポイントとして設定した10人=全体の約20%となった。

 数の論理の追求だけでなく、BIMチームの編成も戦略的だ。得意分野を担当パートとして位置付け、「クロスファンクショナルなチーム編成」としている。担当パート分けは、次のようなBIM運用のメリット追求と深く連動している。

 建物の3次元モデルは、施主への見える化、建築工程の中での見える化、設計者自身の見える化を実現する。BIMを優れた『コミュニケーションツール』として活用する担当パートも設定している。

 建築確認申請には2次元図面が求められ、他業者との間では2次元図面が流通している。3次元モデルから2次元の実施図面をいかに効率的に作成するか。BIMを現実面で『図面作成ツール』として活用する担当パートも重要だ。

 さらには、BIMを構造、積算、環境などの他工程と連携する『コラボレーションツール』として捉え、実証実験を実施しつつある。


 □2次元CADの操作性との類似や2次元図面表現の質などを重視した現実的なソフト選択□

 複数のBIMソフトを試用する中で福井コンピュータアーキテクトのBIMソフト「GLOOBE」の採用を決定した。根拠は極めて現実的で同社固有のものだが、ソフト選択に際してどのような検討が行われたのかは興味深い。

 最初に重視したのは現状からの円滑な移行だ。2次元CAD「JW-CAD」と「GLOOBE」の操作性=〈拡大〉〈縮小〉〈前画面の倍率に戻る〉などが類似していること。「GLOOBE」のアイコンが他のBIMソフトと比較して、大きく、分かりやすいこと。法規制変更にも、国産ソフトなので迅速な対応が期待できること。最も重視したのは、3次元モデルから作成(生成)される2次元図面を現行の図面表現に近似できることであった。

 次回は実物件でのBIM運用を通して、より明確となったBIM運用の「課題と可能性」について報告する。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)