BIMの課題と可能性・60/樋口一希/ホームビルダーのBIM運用・2

2015年4月9日 トップニュース

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 意匠設計部門へのBIM導入に引き続き、実案件での組織間連携の実践を通して環(たまき)ハウスグループ全体へと広がりを見せているBIM運用の現況を報告する。


 □10階建ての分譲マンションを対象に意匠・構造・設備間のデータ連携と実施設計まで運用□


 BIM導入は4年前に遡る。工程の上流に位置し、設計監理業務を担う環ハウスの意匠設計部門から緒についた。直近で躯体工事が完了し、内装工事に着手した10階建ての分譲マンションでのBIM運用(15年2月20日現在)を検証する。

 本案件は、意匠設計部門で構築したBIMモデルと構造部門、設備部門のBIMモデルの連携、確認申請など行政対応に必須の各種2次元図面+実施設計図面の作成までをBIMソフト(GLOOBE=福井コンピュータアーキテクト製)で行った初めての事例だ。

 本案件を進めるのに際して、商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までを一貫して手掛けるグループ全体でのBIM運用力を高めるため、タマキハウジング(土地活用提案/アパート・住宅建築)、タマキホーム(不動産売買/賃貸管理)にもBIMソフトを導入した。


 □2次元からBIMへと移行する際のハードル=「3次元で考える」も支援する態勢を整備□


 販売担当のタマキホームでの顧客へのプレゼンテーション、施工担当のタマキハウジングでの協力事務所を含む職能間の合意形成の円滑化など、3次元モデルによる「見える化」効果は、建築の非専門家、専門家を問わず、組織間をまたがり多大だが、乗り越えるべき課題も顕在化した。

 「日本仕様のBIM」を標榜するGLOOBEは、3次元モデルから2次元図面(データ)を生成する際に、2次元CADで作図していた図面表現+標記を踏襲しているとユーザー間での評価は高い。一方で、BIMソフト習熟だけでは2次元作図から3次元モデル構築への移行には困難も伴う。BIMソフトが設計者に対して操作時にインタラクティブに「3次元で考える」ことを求めるからだ。

 2次元CADは使わず、一気にBIMへ移行するとの全職員間での決定をサポートするために、自社仕様のテンプレートや標準部品の整備、社内勉強会の定例化など支援体制の整備も開始した。

 BIMソフトとの親和性を検証し、構造設計ではSIRCAD、設備設計ではCADWe’ll Tfasを基本ソフトとして設定、意匠設計とのデータ連携を行ったが、対応できる外部協力事務所も限られているなど、システム以前の課題も明らかとなった。構造、設備部門のBIM内製化を一挙に進めるのは困難だが、データ連携の精度とスピードを向上するために内製化への検討にも着手した。


 □若手とベテランのBIM協働でのメリット具現化で高まる「BIMは経営資源」との共通認識□


 BIM導入を加速化する中で、職員の意識も変化していった。若手職員は、オペレーション・レベルではBIMソフトに容易に馴染んだが、実務経験面でベテラン職員には及ばない。ベテラン職員は、当初、「ここまで入れるのか=3次元でモデルを創るのか」と疑念を呈したが、若手職員によるBIMのフロントローディング効果を実感し、BIMへのモチベーションを高めていった。

 両者のBIMによる協働効果は、BIMソフト上で3次元モデルと2次元図面との相関関係が同時進行で視認される際に明らかになる。3次元モデルによって2次元図面では見えなかった検討課題が明らかとなり、各職域の射程距離を遠くまで伸ばせる。施工段階では遅きに失する課題を前倒しして設計段階でも確認できる。

 両者の関係は、BIMを通して「教える者が教えられ」「教えられる者が教える」へと変化していった。このような過程を経て、商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までを手掛ける地域ビルダーにとって「BIMは経営資源」との認識が社内で共有されつつある。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)