BIMの課題と可能性・65/樋口一希/施主に気づきを与えるBIM・1

2015年5月14日 トップニュース

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 前回に引き続き、独立系の小規模な意匠系建築設計事務所での『仕事を創るBIM』運用について報告する。「空創房、一級建築士事務所」(京都府宇治市、代表・畝啓氏)では施主との合意形成の中で『施主に気づきを与えるBIM』運用を目指している。


 □従来のツールとは決定的に異なるBIMでの3次元と2次元のリアルタイムの連動に衝撃□


 畝氏は大学院卒業後、関西の設計事務所に入所、社会福祉法人、住宅などの設計を担当、06年に独立し、「空創房、一級建築士事務所」を開設した。BIM(GLOOBE:福井コンピュータアーキテクト)導入は約3年前、日本建築家協会京都地域会での作品展の際のBIM展示でデモを見たのがきっかけとなった。

 学生時代には3D CAD、設計事務所勤務では2次元CADと設計のデジタル化は自明だったがBIMを目の当たりにして「3次元モデルと2次元図面のリアルタイムでの連動」に強い衝撃を受けた。

 2次元CADは設計・デザインを支援する(Computer Aided Design)よりも、現実的には設計・製図を支援する(Computer Assisted Drafting/Drawing)ツールとして定着した。BIMでは建物の3次元モデルに直接、触れるようにハンドリングし、結果としてシステムが2次元図面を生成する。設計手法そのものを根本的に変えたことで、さまざまな波及効果が明らかとなっている。


 □変更=操作を介在させずに3次元と2次元が連動するので設計者の思考を中断させない□


 2次元CAD上に描いた部材は、『絵としての部材』であり、修正・変更しても、絵が姿を変えるだけで、全図面へ修正・変更は波及しない。BIMでは、『部材はデータベースの一部品』であるため、3次元モデルそのものが修正・変更され、全図面へと波及する。BIM(GLOOBE)では、それらの連動がリアルタイムで行われる。

 「3次元モデル上で柱を変更すると、画面上の図面の柱も瞬時に変更される。この間に、〔変更ボタン〕を押すといったワンクッションがあるだけで思考は中断されるに違いない。画面上に表示されていない全図面へも変更が及ぶ安心感が作業としての図面作成のストレスを大幅に軽減してくれる」(畝氏)

 著名建築家の図面集を読み込み、図面そのものに「憧れをもった最後の世代」(畝氏)かもしれない。2次元図面上で擬似的に逆算して3次元を考えていた経験は、3次元モデルを直接、順算してハンドリングできるBIM運用時にこそ生かされている。


 □『見える化』を超えて施主へ『気づきを与える』ことで新たなニーズを顕在化させるBIM□


 BIM導入後は施主との打ち合わせに図面は一切、用いず、タブレットPCを持ち込み、その場で検討する。設計段階での3次元モデルでも十分だが、施主の理解度に応じてレンダリング処理した3次元パースも用いている。3次元の建物モデルは建築の素人=非専門家である施主への『見える化』に効果があるだけでなく、更にBIMは『施主に気づきを与える』運用へと深化していく。

 当初、背景はうかがい知れなかったが、施主は安価に短期間で建設できる倉庫兼食堂の設計を依頼してきた。現実面で高い収益は確保できない。施主との合意形成を早め、手戻りがないよう、対象建物はBIMで詳細に設計+モデリングし、一部、既存不適格もある敷地内の他の建物はワイヤーフレームで配置した。

 『安価に短期間で建設できる』BIMでの3次元モデルが余りにリアルでチープなため、施主の「老舗のプライド」を揺さぶることとなった。協議を進める中で、対象建物の本格的な再設計だけでなく、敷地内の全ての建物の再配置、リノベーションを含めアドバイスを求められた。『施主に気づきを与えるBIM』運用によって、施主の今後10年間に及ぶ事業計画参画へと設計事務所の職能を延伸する可能性が生まれている。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)