BIMの課題と可能性・69/樋口一希/教育現場でのデジタルツール活用・2

2015年6月11日 トップニュース

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 福井工業大学工学部建築土木工学科において、BIMソフトをはじめとしてどのようなデジタルツールが導入、運用されているのかを報告する。


 □製図の基本を習得した後に2次元CAD+BIMソフトを演習する□


 2年次の前期は実務CADI、後期は実務CADIIが演習としてカリキュラムに組み込まれており、製図法の授業で培った知見を基に2次元CAD、BIMソフト「GLOOBE」(福井コンピュータアーキテクト製)の操作スキルを学ぶ。

 3年次のプレゼン演習では、デジタル化された建築情報の応用手法を学ぶ。前期のプレゼン演習Iでは、2年次の設計課題作品(手描き)を「GLOOBE」で3次元モデルとして作成するなど、現業での運用を想定した演習となっている。後期のプレゼン演習IIでは編集ソフトの定番であるAdobe Photoshop、Adobe Illustratorなどを用いて広範多岐にわたるデジタル情報の編集技術を学ぶ。

 実務CADを受講する全ての学生にBIMソフトが使用できる専用IDが交付される。デジタルツールの演習が始まる2年次から専門科目を履修する4年次になっても、学生には自由にBIMソフトを使える環境が整備されている。


 □BIM普及が産業側で端緒についたという認識と他大学との差別化戦略□


 建築業界では依然として建築工程の中を2次元図面(データ)が流通しており、就職後、すぐに求められるのは2次元CADのスキルだ。それにも関わらず大学側が授業で積極的にBIM導入を進めた背景には、現業でもBIMの普及が端緒につき、建築のデジタル情報が2次元から3次元に移行する過渡期にあるとの認識がある。

 少子化が進行する中で大学の経営環境は厳しさを増している。近接する福井大学や金沢工業大学とは学生の獲得でもしのぎを削る間柄だ。現業側からの要請に応えるべく優秀な学生を集め、送り出すためには、BIMに象徴されるデジタル環境の高度化対応が急務だ。

 BIMソフト「GLOOBE」選択の背景には、福井コンピュータアーキテクトの創業の地が福井であることも関係している。カリキュラムにBIMソフトを組み込んだ以上、演習時の瑕疵は避けなければならない。開発者レベルで直接、サポートが受けられる安心感は大きい。

 学生へのID交付と継続的なサポートに要するコストは明らかにはされなかったが、本事例をレアケースとは呼べないのかもしれない。バージョンアップはネットワーク経由で行えるし、操作マニュアルの大量印刷も姿を消した。ベンダー側のコスト負担の劇的な軽減は今後、BIMソフトの価格体系にも影響を及ぼすかもしれない。


 □コンペの提案力強化を目指す学生の要望でもBIM導入+勉学へのモチベーションも上がる□


 BIMソフト導入の背景には、設計コンペでの提案力をスキルアップしたいとの学生からの要望もある。2次元CADの製図演習は本学科の学生全員が受講しており、大学側では建築の学修に対するモチベーションを上げるため設計コンペ参加を推奨している。BIMソフトを使用すれば高度なレンダリングを施した3次元パースなども作成できる。学生有志はチームを結成し、設計コンペで競い合っている。

 ツリーハウス・ドームの設計施工で用いた3次元モデリング・ソフト「SketchUp(TM)」では、オブジェクトをマウスでつまむようにして、こんな形でと感覚的に「粗く」モデリングできる。BIMソフト「GLOOBE」は同様に、3次元モデルを「粗く」入力する「スタディモデル機能」を持っている。両ソフトは操作面で高い親和性を持つとともに、BIMソフトではSketchUp(TM)のデータを読み込める。

 「BIMソフトを使う方が2次元CADでの製図演習より楽しいのはよくわかる。建築的な知識が少しあれば簡単にモデリングできるし、精度の高い図面も作ってくれる。レンダリング能力も素晴らしい。設計ができてしまうとの学生の錯覚を軌道修正しながらBIMソフト演習を進めるのが重要なポイントだ」(五十嵐啓・福井工業大学工学部建築土木工学科准教授)。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)