風をつかむ-識者の視点・11/東京大学大学院工学系研究科・石原孟教授

2021年7月15日 トップニュース

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 ◇大量生産・低コスト化技術確立を
 日本の産業界は単品の技術で勝っても、大量生産の技術になると海外勢に負けてしまう事例が目立つ。洋上風力の研究に長年携わってきた東京大学大学院工学系研究科の石原孟教授は、いかにコストを掛けずに大量に早く造ることができるかが、洋上風力発電事業の鍵になると説く。実践で確立した技術は海外市場での差別化につながると期待を込める。
 --再生可能エネルギーの洋上風力に注目が集まる。
 「エネルギー問題に本気で取り組むなら洋上風力事業を立ち上げるべきだと主張してきた。事業促進には四つの施策が不可欠。まず研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)らが実証を重ねながら進めてきた。次に洋上風力のFIT(固定価格買い取り制度)ができ、改正港湾法、海洋再生可能エネルギー整備法(再エネ海域利用法)といった法制度も整った。最後のパーツは国が昨年末にコミットした2040年に30~45ギガワット規模の洋上風力の事業化だ」
 「先行する欧州は20年前から洋上風力に取り組んできたが、明確な目標ができて本気で始めたのは約10年前。個人的に見れば、着床式は10年ほど遅れで欧州の当時の熱気が今の日本に感じられる。浮体式は日本も欧州と同じレベルにある。洋上風力をプッシュすると国が決心し、民間の投資意欲が一気に高まった。日本は事前準備もあるから、欧州よりは事業がもう少し速く進むだろう」
 --技術面での課題は。
 「日本では着床式の実証研究が09年ごろから国主導で進められた。大きな問題は台風と地震。実証研究などを通じて国際基準の制定に積極的に関わってきた。台風対応では『クラスT』という国際規格ができた。海外メーカーが風車を日本に持ってくる時は、クラスT認証を取得したものになる。日本がリードして国際基準をまとめることで、台風や地震など、国内での障壁を取り除いてきた」
 「同じ海域でも少し離れたら地質状況が異なり、地盤調査は慎重に行う必要があるだろう。台風や地震も含め、日本の技術力があれば解決できない問題ではない。日本特有の自然・地質環境といった条件が難しいところを解決すれば、世界の洋上風力市場に将来打って出る時にも役立つ」
 --洋上風力の普及拡大の課題をどう見る。
 「日本に優れた技術はあるが、短期間で大量に造る技術開発はあまりやっていない。欧州に比べて地盤が均一でないなど、日本の海域で超巨大な風車を1年で何十基も安価に設置するのは、少しチャレンジングと思われる。海底油田などの既存インフラを活用できた欧州と異なり、日本は船や港など必要なインフラ設備の規模・量も全然足りていない。エネルギーは安くないと意味がなく、高くしたら産業全体に影響が及ぶ。実践の中で学びながら、大量生産・低コスト化技術の確立が求められている」。
 =第1部おわり