デジタルで建設をDXする・82/樋口一希/3Dプリンター住宅6棟完売

2022年11月10日 ニュース

文字サイズ

連載第58回「建設用3Dプリンターの適応技術を実証」(5月12日付)で3Dプリンター住宅が国内初の建築確認申請を取得した事例を報告した。ここでは国内6カ所で3Dプリンター住宅の建設が決定し、高島屋が新年の初売りで3Dプリンター住宅を販売するなど加速化する3Dプリンター普及の動きを取り上げる。
 □3Dプリンター住宅6棟完売、5カ国のメーカーにデータ送信し同時出力する世界初の試み□
 セレンディクス(兵庫県西宮市)は10月に3Dプリンター住宅「Sphere(スフィア)」の一般販売を開始し、初回販売の6棟を完売したと公表した。世界5カ国で同時プリントしたSphereのプレキャスト素材は、初回販売分、第1棟目の長野県佐久市に始まり、岡山、静岡、大阪、福岡、大分と全国6カ所へ送られ、建設が予定されている。
 Sphereの開発はオープンイノベーションで推進しており、開発コンソーシアムの参加企業は日本国内並びに海外企業も含めて140社超となっている。そのような開発環境を基に、セレンディクスでは設計・開発のデジタル運用に特化し、3Dプリンター出力はデジタルファブリケーションネットワークによる海外のメーカーとの協業、住宅施工は住宅施工会社との協業で行う水平分業の住宅づくりを実現している。
 3Dプリンター住宅本体の設計は、日本、米国、オランダ、中国のコンソーシアム企業との共同開発で行われている。世界一基準が厳しいとされるヨーロッパの耐熱基準をクリアする壁面二重構造を採用するとともに、耐震構造設計は地震国である日本の基準を前提としてKAPと協業している。
 従来、3Dプリンター住宅の施工では、垂直な壁のみを3Dプリンターで印刷する建設方法が採用されていた。そのため床、屋根などの他の部位の施工は人力に頼らざるを得ず、施工期間は6カ月を要し、コストも従来工法の3割減にとどまるなどの課題があった。セレンディクスは、住宅の屋根まで一体成型する建設方法によって人的作業をなくすことに成功し、24時間の施工時間を実証、乗用車1台程度のコストを実現している。
 □高さ3・9メートル、広さ約10平方メートルのタイニーハウス1棟を税込み330万円の福袋で提供□
 高島屋は、2023年1月2日に行う初売りの目玉企画として「Sphere:3Dプリンターハウス福袋」を販売する。3Dプリンター技術によって「リッチなグランピング」「自分だけの趣味の離れ小屋」「Myワーケーション部屋」などを実現する福袋として企画したもの。販売数は1棟限定で、価格は330万円(税込み)。応募期間は23年1月2日からとなり、同1月中旬までに抽選し、納品は2月中の予定となっている。
 最先端のロボティクスを用いた3Dプリンターを使用し、造成工事や基礎工事などは除いて24時間で施工可能な高さ約3・9メートル、約10平方メートルのタイニーハウスだ。デザインは世界的に著名なニューヨークの曽野正之氏の「Clouds Architecture Office」、構造設計はKAPが担当している。球体の形状によって物理的にも強い耐震強度を実現しており、エネルギー消費量の削減に貢献するべくヨーロッパ基準の断熱性能をクリアしている。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)