西武ホールディングス(HD)は東京都の北西と埼玉県の南西で総延長176・6キロの路線網を築く西武鉄道やプリンスホテルなど全国で不動産事業、レジャー産業をけん引してきた。コロナ禍での輸送人員の減少や行動制限は、グループ全体の収益に大きな打撃を与えた。不動産の保有体制を見直すとともに、連続立体交差化が進む西武新宿線をはじめ鉄道資産の潜在力を引き出す施策が業績回復の鍵となりそうだ。
西武グループは二大幹線の池袋線と新宿線が乗り入れる埼玉県所沢市を「中心衛星都市」と位置付ける。西武沿線のイメージアップの原動力として、所沢エリアに総額1000億円規模を投じ開発を推進。2020年には所沢駅改装が完了し、駅直結型の商業施設も全面開業。21年には事業費約180億円をかけたプロ野球・埼玉西武ライオンズの本拠地「西武ドーム」(現ベルーナドーム)の大型改修と、同100億円を投資した西武園ゆうえんちのリニューアルが完成した。
住友商事と共同で進める「所沢駅西口開発計画」は総延べ約12・9万平方メートルの商業施設を車両工場跡地に整備する大型プロジェクトだ。総事業費は約295億円。都会と郊外の二つの魅力を合わせた「所沢スタイル」を発信する広域集客型の商業施設となり、24年6月の完成を目指す。ベッドタウンの色が強い所沢だが、西武HDは「暮らす、働く、学ぶ、遊ぶの4要素がそろったリビングタウンに進化させる」と力を込める。
池袋線に比べ設備投資が遅れていた新宿線では、都内区間で連続立体交差化事業が進んでいる。中井~野方駅間(総延長2・4キロ、地下化)が27年3月、東村山駅付近(国分寺・西武園両線含む同4・5キロ、高架化)が25年3月に完成となる予定。連立事業の動向を見ながら「高架下などの活用や、駅周辺の再開発参画といった街づくりを検討していく」(西武HD)。
新宿線のターミナルである西武新宿駅では、東京メトロ丸ノ内線新宿駅までを直線ルートで結ぶ地下通路の新設計画が21年に都市計画決定された。JR線を含む他路線との乗り換え利便性が高まり、新宿線沿線の魅力アップにもつながる大プロジェクトで早期実現に意欲を示す。併せて、駅施設や駅ビルの再構築に向けても関係機関と協議しながら検討していく。
西武HDはコロナ禍を受けた輸送人員の変化を踏まえ、西武鉄道など都市交通事業でダイヤの見直しを行った。西武鉄道が中核の鉄道事業に専念できるよう、同社が手掛ける不動産事業を西武リアルティソリューションズ(東京都豊島区、齊藤朝秀社長)へ23年4月に移管し、西武HD内の不動産事業の体制を見直す。
ホテル・レジャー産業では保有資産を減らして財務体質を強化する「アセットライト」を推進。国内で保有するプリンスホテルなど31施設をシンガポールの投資ファンドに売却すると決め、年度内にも予定していた施設の譲渡が完了する。
品川駅近くにある「グランドプリンスホテル高輪」(東京都港区)は周辺地区で具体化する都市再生の動きに併せて、高度利用を踏まえた建て替えを検討。既存のMICE(国際的なイベント)開催の機能などを生かしながら、オフィスや商業、住宅といった機能の導入を視野に入れる。不動産市場の動向を注視しつつ、施設の詳細計画をまとめる考えだ。