国土交通省は改正建設業法で定める「労務費に関する基準(標準労務費)」の実効性確保策を巡り、官民の関係者間でほぼ合意が得られた対応の方向性を明らかにした。中央建設業審議会(中建審)のワーキンググループ(WG)で、契約段階で労務費を確保する「入り口」の対策は議論が収束しつつある。労務費などを内訳明示した「標準見積書」の作成と活用促進に向け、発注者や元請・下請などのサプライチェーン(供給網)全体で意見交換する場を設置する方向だ。
3月5日に非公開で行った第5回会合の議事要旨を公開した。第4回会合までに議論した「入り口」の対策と、実際に労務費・賃金を支払う「出口」の対策について委員間で意見の相違が目立ったため、国交省がたたき台を再提示し落としどころを探った。「出口」の対策は議論が尽くされておらず、継続し検討する。
「入り口」の対策は適切な見積書を取り交わす契約慣行の定着に重きを置く。各専門工事業団体に標準見積書の作成を促すが、立場の異なる関係者間で相互に見積書の作成・交渉がしやすい形とするため、見積書の様式や運用の留意点で意見交換する場を設ける。国交省が見積書の電子媒体化を前提とした作成支援ツールを用意したり、見積書作成に慣れていない中小企業を支援するモデル事業を展開したりもする。
雇用に伴う「必要経費」として確保すべき参考値を、標準労務費と同時公表する方向も示す。法定福利費の事業主負担分や労務管理費、安全管理費などの必要経費で公共工事設計労務単価の41%という数値が公表されているのと同じように対応。労務費と併せての確保・行き渡りを目指す。
標準労務費の運用方法も再整理し、新たに精算や値引きの考え方を明確化した。
請負契約の原則は維持しつつ、契約時に決めた労務費と完工時までに必要となった労務費が異なった場合に対応が必要となるケースを例示。契約後に設計図書の変更・詳細化が多発するなどの実情を踏まえ、契約当事者双方が予期しない労務費の変動や、注文者の都合による工事内容の変更が生じた場合、当事者間の協議を経て契約変更・精算が行われるべきとした。
閑散期の値引きなど受発注者の合意の下で安価な見積もりを行う場合、値引きの原資を受注者の利潤相当額の範囲から充てられるべきと指摘。注文者から減額交渉を持ち掛ける場合、労務単価の水準を下げるのは違法行為の恐れがあり、あくまで歩掛かり部分の改善提案にすべきとした。