能登半島地震-識者に聞く/金沢工業大学特任教授・川村國夫氏

2025年5月7日 論説・コラム [2面]

文字サイズ

 ◇なりわい再建に向けた復興へ
 昨年、地震や豪雨に見舞われた石川県の能登半島では、大規模に被災した国道249号をはじめインフラの復旧が進む。生活・なりわいの再建に向けた復興も本格化する。国や県の道路復旧技術検討委員長などの立場で復旧・復興に携わる金沢工業大学の川村國夫特任教授に、被災地の現状や展望を聞いた。
 --応急復旧の進捗をどう見る。
 「時間がかかっているというのが率直な印象だ。2007年3月25日に発生した能登半島地震よりも困難な点が多い。07年の地震もマグニチュード6・9で被害は大きかったが、大規模崩落があったのは能登有料道路(現・のと里山街道)で13カ所ほど。24年1月の地震では半島全体のあらゆる場所で甚大な被害が発生した。のと里山街道は27カ所程度損傷し、国道249号など他の幹線道路も使えなくなった」
 「家屋など建築物、河川、漁港、上下水道など多岐にわたるインフラが被災した。加えて、9月の豪雨災害の影響は計り知れない。地震からの復旧を目指す中で土砂や泥水が押し寄せ、復旧作業中の現場や仮設住宅、地震に耐えた建築物などに被害をもたらした。度重なる災害に心が折れた方もいる」
 --道路の復旧状況は。
 「国が権限代行で進めている国道249号沿岸部では昨年、救急車や地元車、工事用車両を一刻も早く通すための緊急的な復旧が行われた。逢坂トンネル工区は内部覆工の変状は大きくないが、崩落全体で120万~130万立方メートル、輪島側坑口付近で30万立方メートルもの土砂が流出し、トンネルが閉塞(へいそく)している。最低限の交通機能を迅速に確保するため、現道は使わず地震により隆起した海岸を活用。前例のない方法だったが、早期に迂回(うかい)ルートを構築することができた」
 「次の応急復旧のステップとして、各工区で一般交通の確保を目指している。中屋トンネル工区のトンネル内の整備などが進んでおり、年内をめどに完了するだろう。本格復旧も3月に一定の方針を示した。249号よりさらに半島の奥に続く道は、国と県が本格復旧を担当し、ほぼ方針が決まった。岬や灯台、雄大な自然、集落のお祭りなど能登の魅力が詰まっており、このエリアの交通機能が回復すれば復興の起爆剤になる。幅員の確保が難しいかもしれないが、観光バスが通行できるようになってほしい」
 --インフラの早期復旧に向けた課題は。
 「復旧加速のためには行政や建設企業、土地所有者など各関係者の連携が不可欠だ。現場を担当する建設企業には、周辺工区とのつながりを大切にしてほしい。大手建設企業と地元建設企業のJVは、豊富な人材や地域への精通などそれぞれに強みがある。知恵を出し合ってお互いの良さを引き出してほしい」
 「作業員や利用者の安全を確保することも重要だ。復旧現場周辺は地盤の緩みなどリスクが残る。沿岸部では風浪も懸念される。自然条件に細心の注意を払って復旧作業の二次災害を防ぐとともに、通行止めなど利用者の安全のための措置も適切に行う必要がある」
 --復興には長期を要する。
 「国が入ることでしっかりと予算が確保され、安全性や質の高いインフラの形成が期待できる。奥能登では地震の前から人口減少が目立っていた。被災によって、その流れは加速することが考えられる。地元自治体がハード・ソフト両面で取り組みを進めなければならない。創造的な復興に向け生活や観光、流通などさまざまな面でインフラを活用し、エリアにさまざまな形で携わる『関係人口』の拡大につなげてほしい」
 --今回の地震・豪雨被害での教訓は。
 「外からの援助が途絶えてしまうため、半島部への道路ネットワークは決して壊れてはならず、被災後もすぐ復旧できるようにしておく必要がある。当然だが、車線数は多い方が良く、4車線あれば2車線被災しても残る2車線で交通機能は維持できる」
 「地震と豪雨の二重災害も大きな教訓だ。地震により上流で流出した土砂の撤去に手が回らず、結果として豪雨による被害拡大の要因となった。二重被災の対策の重要性は以前からも指摘されてきたことだが、教訓を生かし切れなかった。ハード面の措置を迅速にできれば最善だが、現実的には難しい。気象庁が警報や注意報の出し方を工夫すれば、自治体がスムーズに避難を指示できる」。