山口県山陽小野田市が官民共同事業体(LABV)方式による全国初のまちづくりに取り組んでいる。4カ所の市有地、民有地を連鎖的に開発する。最初の複合施設「Aスクエア」の供用開始から1年が経過。藤田剛二市長は「評価はこれから」としながらも「官民連携と人口減少対策の象徴になる」と自信を見せる。関心を寄せる地方自治体は多く、市には供用前から視察が相次ぐものの、期待とともに不安を抱く自治体担当者も少なくない。新たなまちづくりの先行きは--。
LABV方式は英国の発祥。土地などの公有資産を現物出資する地方自治体と資金出資の民間が設立した事業体が施設の整備や運営を担う。内閣府民間資金等活用事業推進室は、複数の土地を連鎖的に開発するPPP手法の一つに位置付けている。
市が実施しているのは、商工センター用地など3カ所の市有地と、山口銀行所有の民有地1カ所の4カ所を開発するプロジェクト。市、小野田商工会議所、山口銀行と、事業パートナー6者が出資する「山陽小野田LABVプロジェクト合同会社」が施設の整備・運営を担う。
合同会社の市と民間の現在の出資比率は85対15。市の出資は商工センター用地(敷地面積5485平方メートル)の簿価分となっている。事業パートナーは代表企業が合人社計画研究所、構成企業は▽大旗連合建築設計▽前田建設▽長沢建設▽富士商グループホールディングス▽エヌエステクノ。
リーディングプロジェクトとして商工センター用地の開発に着手。2022年7月に既存建物の解体を始めた。Aスクエアの供用開始は24年4月。建物はRC造5階建て、S造3階建ての2棟構成で総延べ4843平方メートル。設計監理を大旗連合建築設計、施工は前田建設・長沢建設JVが担当した。
Aスクエアは、市の出張所、市民活動センター、小野田商工会議所、山口銀行小野田支店、飲食店などが入り、山口東京理科大学の学生寮にもなっている。公共サービスも提供する市民活動の新たな拠点となり、人の往来が多い。テナント収入と学生寮が安定性の高いキャッシュフローを生み、藤田市長は「高いパフォーマンスを発揮してくれている」と話す。
ただ、事業全体を見れば高砂市有地(4757平方メートル)と旧中央福祉センター用地(2870平方メートル)、旧山口銀行小野田支店用地(1385平方メートル)の3カ所の開発は検討段階で計画が未定のまま。市が公有資産を提供するプロジェクトは、不確実な事業に対する懸念をぬぐい、公共性と事業性を両立する仕掛けと熱意の上に成り立っている。