全国の下水道普及率は2023年度末時点で81・4%に上り、下水処理場は人々の日常生活を縁の下から支える重要な社会インフラだ。その下水処理場でも長年処転を担ってきた熟練職員が退職し、高度な運転技術の継承が大きな課題となりつつある。こうした実情を踏まえ国土技術政策総合研究所(国総研)が下水道の運転を支援するAI技術のガイドラインを作成し公開した。処理水質の維持と、薬品や電力使用量の低下を両立する運転をAIが支援する新たな仕組みを提案している。
「AIを活用した下水処理場運転操作の先進的支援技術」は、国土交通省が実施した「下水道革新的技術実証事業(B-DASH)」で官民が連携して開発した。明電舎、NJS、広島市、千葉県船橋市の4者による共同研究体が21~23年度に実証実験を実施。この成果を国総研が7月、技術支援ガイドラインにまとめた。
同技術は▽画像処理▽対応判断▽水質予測▽運転操作-の四つのAIが連携して働くのが特徴。それを支えるハードウエアはカメラシステムやデータ収集装置、AI推論装置、運転ガイダンス装置などで構成する。
画像処理AIは沈殿地の水面などの画像処理状況や異常検知を担う。水面に浮かぶ気泡や浮遊物(スカム)、微生物の固まり(フロック)などを認識し、あらかじめ設定した数値を超えると異常と判断。対応判断AIに知らせる。
対応判断AIはデータ収集装置の情報や画像処理AIから送られてくる信号を基に、運転操作変更の判断や変更に至った理由を示す。あらかじめ過去の状況を学習し、これまでに運転変更した割合が高ければ、変更すべきと判断する。
水質予測AIは、酸性度(pH)や総窒素(T-N)、総リン(T-P)といった水質指標の変化を過去のデータと設定値を基に示し、期待した変化が起こるかを確認する。運転操作AIは、対応判断AIの判断を受けて実際に運転操作量を出力する。
AI推論の機能をクラウド上に預けたり、一部のAI機能を省略したりできコストを抑えられる。ただカメラなどハードウエアは下水処理場内に必ず設置する。カメラシステムは100万画素程度のネットワークカメラを使用。30分に1回程度の頻度で撮影した画像をAI推論に必要なサイズにして転送する。ただし状況判断できない場合に備え、複数枚撮影することが望ましい。
データ収集装置は、カメラシステムで撮影した画像を取り込み蓄積するとともに、そのほかの監視装置から送られてくるデータを取り込み平均値の算出などを行う。監視装置内の日報収集や技術者が分析した水質などの保存と加工、AI推論の結果保存なども担う。
このほか実際にAIを動かすAI推論装置や推論結果を管理者に表示する運転ガイダンス装置なども必要になる。AI推論装置は特に画像処理に高い演算負荷がかかるため、必要に応じ複数台に分けるなどの対応が必要になる場合がある。
こうした装置を用いることで四つのAIの連動やAI推論の結果の見える化、過去の運用データ蓄積によるAI推論の修正を実現。さらに熟練技術者の運用を模倣することによる技術継承や、蓄積したデータの学習による運転の効率化につながる。合流式や分流式など形式を問わず使用可能。カメラ以外のセンサー追加が不要で、ハードは最低限の改修で現場導入できる。
4者は23年度に広島市西部水資源再生センターで実証実験を実施。熟練技術者の運転判断を学習した結果、高い水質目標達成率となった。電気使用量は従来と比べ約1・4%削減し、薬品使用量も約6・5%減らすことができた。導入コストを考慮すると経費回収までに約4・6年かかると試算している。
国総研ではガイドラインを活用し、AIを使った下水処理場の運転支援技術の全国展開を目指していく。