三菱商事は27日、秋田県と千葉県の沖合3海域で計画していた洋上風力発電事業からの撤退を発表した。資材価格の高騰や円安の影響で建設費が2021年5月の応札時に比べて2倍以上に膨らむと見込まれ、売電収入では採算が取れないと判断した。国を挙げて推進してきた再生可能エネルギーの柱である洋上風力の拡大戦略は、軌道修正を迫られる。建設を担う企業や地元の関連産業への影響も大きく、公平なパートナーシップを前提とする公共調達の在り方も問われそうだ。
同日に東京都内で開かれた会見で、中西勝也社長ら幹部が経緯を説明した。中西氏は「21年5月の応札以降、洋上風力発電事業を取り巻く環境が激変し、さまざまな手を尽くし検討したが、3案件とも開発を取りやめざるを得ない」と経緯を説明。その上で「(コストが)今後さらに膨らむ可能性もある。仮に当時のFIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)価格が2倍になっても事業継続は困難」と判断し、政府に事業撤退を届け出たことを明らかにした。
三菱商事らで組成する企業連合は、21年12月に国が再エネ海域利用法に基づいて公募した第1弾の洋上風力発電事業者に選定された。対象海域は▽秋田県能代市、三種町および男鹿市沖(発電設備出力47・88万キロワット〈1・26万キロワット×38基〉)▽秋田県由利本荘市沖(81・9万キロワット〈1・26万キロワット×65基〉)▽千葉県銚子市沖(39・06万キロワット〈1・26万キロワット×31基〉)-の3海域。28年9月~30年12月に運転開始を予定していた。いずれも鹿島が洋上風力発電設備の主要部分を施工する予定だった。
3海域の事業者選定では、三菱商事連合が評価点ウエートの半分を占める価格点で満点を獲得し、他の参加事業者とは大きな開きがあった。中西氏は事業撤退に伴い、事業者公募のルールに基づいて国に保証金を支払うことも表明した。
三菱商事による撤退表明を受け、関係省庁にはさまざまな受け止めがある。ある担当者は官民連携による公共調達の事業でもあることに触れ、「契約後に発生した事態に応じるための契約の内容や、官民のリスク分担の在り方が問われていくことになる」と指摘している。
政府が2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画では、40年に向けた政策の方向に関し、洋上風力を含む再生可能エネルギーなど脱炭素効果が高い電源を最大限活用すると定めている。
エネルギー戦略の見直しが迫られる可能性があるとともに、今後の公共調達や官民連携の分野に影響も出てきそうだ。