2015年9月10日、関東・東北豪雨が各地を襲った。鬼怒川の堤防が決壊し、茨城県常総市は市域の約3分の1が浸水。救助者は約4300人に達し、深刻な被害を受けた。「常総水害」から10年。国の復旧事業で堤防整備が完了し、市は教訓を踏まえて防災体制を立て直してきた。節目を迎えた今、市は災害の記憶を風化させず、次世代に引き継ごうとしている。
関東・東北豪雨は9月7日から11日にかけて、関東や東北一帯に記録的な雨を降らせた。常総市内の鬼怒川沿いにある若宮戸地区でいっ水が発生し、10日には三坂町地先で堤防が約200メートルにわたり決壊。約40平方キロの範囲が水にのまれた。
発災直後、国土交通省はテックフォース(緊急災害対策派遣隊)を現地に派遣。全国の地方整備局からも応援部隊が駆け付け、排水ポンプ車は1日最大51台が稼働した。約780万立方メートルを排水する大規模な作業で、緊急復旧の最前線を担った。市内建設業者でつくる建友会も重機や人員を迅速に投入し、地域に根差した対応で初動を支えた。
決壊した堤防の復旧と機能強化に向け、国や県、市など7市町は「鬼怒川緊急対策プロジェクト」を災害後に始動した。ハードとソフトを組み合わせた治水対策で、約5年という短期間に総延長66キロの堤防整備や河道掘削128万立方メートルを実現した。
市は庁舎の浸水で本部機能を失い、避難情報の伝達にも支障が出た経験から体制の強化を進めた。16年度からは「マイ・タイムライン」作成を支援。市内全ての小中学校で、堤防決壊の9月10日に合わせた一斉防災学習を行っている。
神達岳志市長は「防災先進都市」を掲げ、地域防災力の底上げに取り組んできた。「地域建設会社と日頃から顔の見える関係を築くことが大切」(市防災危機管理課)という姿勢も、初動対応や復旧支援に結びついた。
常総市は28日、「水害の記憶を未来へ」と題したシンポジウムと記念式典を開く。パネルディスカッションを通じ、被災当時の行動や教訓、現在の取り組みを改めて見つめ直す。災害と向き合い、乗り越えてきた記憶を次代に手渡していく。