共創・革新・環流・4/JICA/「スポーツと開発」で建設・運営分野に貢献

2025年10月22日 共創・革新・環流

文字サイズ

 ◇エリアマネジ推進が不可欠
 □国際協力と融合□
 国際協力機構(JICA)は、開発途上国における人間の安全保障と質の高い成長の実現を目指し、都市・地域開発や保健医療、平和構築、気候変動など20の課題別事業戦略(「JICAグローバルアジェンダ」)を定めている。その一つとして「スポーツと開発」を推進している。
 スポーツは国際的にも古くから基本的権利とされており、昨今では健康や教育、社会包摂、平和構築に貢献する手段としても認識され、SDGs(持続可能な開発目標)達成への寄与が期待されている。特に「健康と福祉」「教育」「ジェンダー平等」「平和と公正」などの分野で、スポーツを活用した取り組みが注目を集めている。

 □海外協力隊からスタート□
 JICAによる「スポーツと開発」の取り組みは、今年で発足60周年を迎えたJICA海外協力隊から始まった。1965年の同協力隊発足初年度にカンボジアへ柔道と水泳、マレーシアに体育を指導する協力隊員を派遣した。「すべての人々が、スポーツを楽しめる平和な世界に」を「スポーツと開発」に関するJICAグローバルアジェンダの目的に掲げ、スポーツが持つ魅力や特性を生かした事業を推進している。

 □ラオスのスタジアム改修□
 ラオスの首都ビエンチャンにあるチャオ・アヌウォン・スタジアムは1950年に建設されて以来、街の象徴としてラオス国内の障害者スポーツを含めたスポーツの試合(サッカー、ラグビー、パラ陸上など)、一般市民やアスリートを対象とした各種イベントに活用されてきたが、老朽化に伴って安全性や運営面で課題を抱えていた。
 JICAは無償資金協力により施設の改築と機材の調達を支援し、今年3月には起工式が行われた。施設や機材の整備だけでなく、運営維持管理マニュアルの作成に協力したほか、日本での研修を通じた運営ノウハウの移転や、技術協力を通じたスタジアム周辺地域のまちづくりのための能力強化も組み合わせて支援している。
 このようにハード面の整備に加え、持続的な施設の活用を見据えたソフト面強化への協力のような革新的な支援の展開は日本の協力の哲学ともなっており、このスタジアムが市民生活や障害者スポーツの拠点として、開かれた施設になることを目指している。なお、施設の改築に際しては、スタジアムの入り口にチャオ・アヌウォン王の像を設置し、着工前に伝統儀式による安全祈願を行うなど、文化的側面も重視されている。

 □コンゴに柔道センター□
 コンゴ民主共和国(コンゴ)では柔道が盛んであるにもかかわらず、屋内柔道場がほとんどなく、さらに、観客席付きの屋内スポーツ施設も不足していた。この課題に対し、JICAは無償資金協力で延べ床面積2200平方メートル、収容人数1120人の柔道スポーツセンター建設を支援した。
 このセンターは2022年末に完工した。柔道、空手、バレーボールなどの競技に対応できることに加え、各種のコンサートや地域イベントにも活用できる多目的施設として設計されている。
 特筆すべきは、同センターは警察の敷地内に建設され、市民柔道クラブなどが活動する傍ら、警察官の訓練に柔道が組み込まれ、市民と警察が共に利用し交流することを可能とする仕組みを導入し、治安維持や青少年育成への貢献を図っている点である。同国では長年にわたり紛争が続き、治安維持が大きな課題である中、スポーツを通じたコミュニティー形成や平和の推進に、この施設が果たす役割は大きい。

 □地域社会の包括的な発展へ□
 これら事業は単なる施設建設にとどまらず、施設のライフサイクル全体を見据えた設計、施工、運営支援、地域住民や行政との共創を通じたエリアマネジメントの推進、教育や福祉など他分野との連携による多面的な価値創出なども含めた包括的な取り組みの典型的な事例といえる。
 特にエリアマネジメントは、施設を地域の文化・経済活動の中心として位置付け、持続可能な運営を確保する上で不可欠な要素となっている。
 国際協力の現場では、運営面の持続性にも充分配慮した上でスポーツ施設を整備し、地域社会が抱える課題への取り組みと活性化への貢献が求められる。スポーツ施設を一つの核とした街づくりは、教育、文化、治安といった多分野への波及効果を持ち、地域社会の包括的な発展に寄与する可能性を秘めている。柔道や剣道を通じた日本文化の普及および国際交流などを含め、多面的な開発効果の可能性を持つ「スポーツと開発」への期待は今後一層高まるだろう。すべての人々がスポーツを楽しめると同時に地域コミュニティーの持続的発展にも寄与できるような施設の整備を通して、今後も開発途上国における平和で活気ある社会の実現に貢献していきたい。
 (JICA青年海外協力隊事務局 小川直生)

同一ジャンルの最新記事