◇過去から未来へ-旅を支えるインフラが時間もつないでくれる
「美しい」という言葉だけでは、どうしても足りない景色がある。一目見た瞬間の息をのむような眺めに、その土地が抱えてきた時間や記憶が重なったとき、人はそこを「絶景」と呼ぶのかもしれない。“絶景プロデューサー”として世界中の風景を訪ね歩き、写真と言葉で魅力を伝えてきた詩歩さんは、絶景を「コピーできないもの」だと言う。だからこそ、そこへ至る道や、支えるインフラ、そして発信する側の責任にも、静かに目を向けてきた。旅の先に広がる景色と、その裏側にある物語を、詩歩さんの言葉でひもとく。
--詩歩さんは絶景の魅力を発信されています。
絶景の定義として考えているものが二つあります。一つは景観としてぱっと見た瞬間に「美しい」と感じること。もう一つは、その土地ならではの「物語」があることです。わざわざ遠くから足を運びたくなるような美しさと物語を兼ね備えていることが、絶景の条件だと思っています。
コピーができず、訪れた瞬間は二度と同じものにはなりません。何度行っても新しい発見や異なる表情に出会えるのが魅力です。
絶景を発信する立場からすると、観光地として紹介して良い場所かどうかは常に考えます。人気のスポットになることによって、地域の方々の迷惑になってしまうこともあると思います。発信する側の責任が問われるケースもあるので、常に人が集まって良い場所なのか、立ち止まって考えるようにしています。
--インフラを建設・維持管理・更新している建設業やインフラに対して率直なイメージを。
インフラは当たり前に存在するものですが、生活や旅に欠かせない大切な存在です。例えば鉄道や道路があることで、さまざまな場所に足を運ぶことができ、展望台があれば人間だけでは到達できない場所から、思わず息をのむような景色が楽しめます。
観光でいろいろな場所を巡っていると、管理されず廃れてしまう建物や街並みがあります。けれども行政が入り街並みを整備することで、貴重な文化として紡がれていきます。人との物理的なつながり以外でも、昔と今、そして未来をつないでくれている存在だと思います。
--街やインフラの絶景で印象的なエピソードを。
クロアチアの「ドブロブニク」がとても印象に残っています。アドリア海に面していて、城壁で囲まれた街です。街の成り立ちをひもとくと、クロアチアの沿岸部は中世の13世紀に、貿易が大いに栄えていました。豊かな地域だったため、海賊など他の国に狙われやすい側面もありました。街や営みを守るために、城壁を造ることになったのです。こうした歴史があったからこそ、今、私たちは美しい景観を楽しむことができるのです。
ドブロブニクには、標高約400メートルのスルジ山があります。ロープウエーで登り景色を見下ろすと、青い海とオレンジ色の突き出た街並みが眼下に広がります。はじめは街の景色を眺めていたのですが、山がピンク色に染まっていることに気付きました。夕日が山を照らしていたのです。少し離れた場所まで移動すると、地平線に沈む前の夕日に間に合いました。たくさんの夕日を見てきましたがその日は特に美しく、景色が心に刻まれました。
--日本でおすすめの絶景は。
日本一のモグラ駅と呼ばれているJR上越線の「土合駅」が印象深いですね。上りホームと下りホームが500段ほどの階段で隔てられています。駅舎から階段を10分くらい下らないと、たどり着けない場所にホームがあります。無機質な階段を歩きながら、先が全く見えない場所に向かって進む感じが、アトラクションのようでわくわくします。最近は駅舎自体にホテルやカフェが整備されています。こうした駅自体を楽しめる場所にする取り組みが各地で増えていますね。
--まちづくりやインフラ整備では地域との共生が課題になります。
ここ数年でメガソーラーは急激に増えたように感じています。「ここもメガソーラーになったのか」と心を痛めることがしばしばです。暮らしや日々の営みに電力が必要なのは確かです。自然の中に造るのであれば、外から見えた時の景観や印象をさらに意識して、開発していただければうれしく思います。新しいものを造る時は、その土地の歴史や物語に沿うような開発を意識することも、大切なのではないでしょうか。
再開発も多くなっています。多くの時間と労力をかけ、知恵を絞ってプロジェクトを進めている。それは理解していますが、どこかで見たような景色が増えているように思えます。便利さを追求することは重要ですが、その場所ならではの大切なものがあるので、両立できる方法があると良いなと思います。
--建設業に携わる人へのメッセージをお願いします。
当たり前のように存在してくれているインフラもそうですが、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。最近は資材高騰などの影響で完成時期が遅れたり、工期が延びたりすると聞いています。ですが、完成を楽しみにしている人がたくさんいます。これからもぜひ、感動を生む多くの絶景を造っていただけたらと、心から願っています。
(詩歩・Shiho)早稲田大学卒。広告代理店を経て独立。累計66万部を突破した書籍『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』(三才ブックス発行)の著者で、SNSのフォロワー数は100万人以上。旅行商品のプロデュースや自治体等の地域振興のアドバイザーなどとして活躍中。趣味は温泉巡り、バレーボール観戦、ラジオなど。浜松市出身。







