BIMの課題と可能性・49/樋口一希/鹿島の「Global BIM」・1

2015年1月15日 トップニュース

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 2015年の本稿は鹿島の「Global BIM」から再始動する。各方面への取材を通して明確となった「Global BIM」のインパクトと多角的な広がりを報告する。


 □アジア各国のイベントでBIM関係者にインパクトを与えたGlobal BIMの革新性に肉薄する□


 鹿島の矢島和美氏(建築管理本部建築技術部担当部長、BIM責任者・生産性向上)の動向。シンガポール、インド、韓国で開催されたBIM関連イベントに招聘され基調講演を行うなど、「Global BIM」の展開を注視していた。講演資料とインタビューに基づき、「Global BIM」の革新性に肉薄する。

 ・図1はBIM適用案件数の推移。14年にはBIM適用案件は150を数え、既に試行錯誤から実利を得る段階。部分的なBIM運用を含めると約2倍の案件数。

 ・3次元モデリング+3次元→2次元図面作成のコストも従来からは約半減。

 ・国内外からアクセスする協働モデリング実現で海外進出も戦略的にサポート。

 ・外部協力者=女性を多用する新たなワークスタイルも提案。

 ・生産拠点=施工現場に近接した組織的なBIM運用で設計施工をさらに高度化。


 □国内外の関係者間でクラウドサーバーを共有 入力にとどまらずBIMモデルの協働構築を実現□


 「Global BIM」の概要は、公式サイト、BIM@SITEに詳しい。BIM運用を支えるプラットフォームの総称であり、高いセキュリティを持つクラウドサーバーをベースに構築されている。顧客をはじめ、国内外の複数企業にまたがる関係者間でBIMデータの共有・管理・運用が可能だ。

 特筆できるのは、国内にとどまらず、フィリピンのAidea(設計会社兼BIMコンサルタント)、HCLジャパン・インド(BPO※)、韓国のDoalltech(グラフィソフト・コリア)によって共通のBIMソフト(ArchiCAD:グラフィソフトジャパン社製)を用いたネットワークによる協働モデリングが行われていることだ。

 国内には、施工図作成を担う鹿島クレスと鹿島沖縄BIMセンターがあり、海外企業と日常的にコラボレーションしている。これらプロジェクト全体の統括管理は、BIMマネージャーが所属するBIM推進グループを中心に行う体制が構築されている。


 □データベースと連動する3D-CADの思想を受け継ぎ、ネットワーク協働できるBIMソフトを選択□


 BIMのメディア登場以前の06年からBIM運用の実績を上げていた背景には、データベースと連動する3次元CADシステム実現への飽くなき挑戦の歴史がある。

 1980年代初頭、ゼネコン各社は、汎用大型コンピュータでBIMに匹敵するCADシステムの開発を志向していた。建築物を構成する3次元オブジェクトを定義、データベース化し、デジタル空間にプレコンストラクションするオブジェクト志向のCADシステムと呼ばれたものだ。ハードウェアやネットワーク環境の脆弱さ、コスト負担増から開発継続は困難を極めたが、鹿島では、その思想を脈々と受け継ぎ、図2にあるように、95年から99年にかけて「Architecture=建築意匠」「Structure=建築構造」「MEP=機械・電気・配管設備」のDB CADを自社開発している。

 転機を迎えたのは、ベンダー提供のBIMアプリケーションが進化し、運用できる可能性が見えてきた02年頃だ。複数のシステムを比較、検討し、選択したのはArchiCADだった。グラフィソフトジャパンのサイトに「1987年、現在の建築業界の標準となる『BIM』をバーチャルビルディングコンセプトとして世界で初めて実装」とあるように、Data Base CADとしてのコンセプトに合致し、ネットワーク運用に適したデータベース構造を持っていたからだ。

 ※BPO=Business Process Outsourcing。業務プロセスそのものの企画設計から必要なシステムの導入、人材や設備の準備、プロセスの運用までを一括して委託すること。委託側は限られた経営資源をコア業務に集中できる。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)