BIMの課題と可能性・123/樋口一希/高砂熱学工業のBIM運用・3

2016年8月18日 トップニュース

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 BIMの3次元建物(躯体)モデルとの連携が端緒についたばかりの現況下、一面で自己完結的に設備の3次元モデルを徹底活用している設備(工事会社)サブコン、高砂熱学工業の「現在」を報告する。


 □各種技術計算+シミュレーションのフロントローディングへと適用範囲を拡げる設備BIM□


 高砂熱学では、設備BIMともいえる設備CAD「CADWe’ll Tfas 8」(ダイテック)などを用いて、空調・衛生・電気設備の施工内容を決定する各種検討や合意形成に始まり、それらの結果を網羅した施工図作成、施工計画立案、施工実施に至るまでデジタル情報の援用を続けている。加えて他業務との情報連携の中で、設備の3次元モデルが優位性を発揮するのが各種技術計算+シミュレーションの領域だ。

 竣工後の経年過程の中で、スタティック(静的)な存在である建物(躯体)と比較して、ダイナミック(動的)に稼働する空調・衛生・電気設備の挙動をフロントローディングし、的確に捉えるために必須の各種技術計算+シミュレーション。高砂熱学では自社開発ソフトと市販ソフトを組み合わせて対応している。


 □フロントローディンク実施時のキーワードとなる「音」「抵抗」「気流」「圧力」「明るさ」など□


 一例として『屋外騒音計算』を概説する。従来の屋外騒音計算システムでは、機器やガラリなどの騒音源を複数定義して、受音点一点に対して距離と遮音壁の状態を設定、受音点の騒音値を求め、時間ごとの騒音規制値の遵法性を判断していた。

 一方で、騒音源が複数あると、受音点と音源の位置関係と遮音壁の設定が面倒で、しかも広範囲な敷地境界面における計算対象が一点になるため、多くの点を計算しようとすると時間がかかり過ぎるなどの課題があった。

 これらの課題を解決するために、設備の3次元モデル上に、騒音源としての機器やガラリから遮音壁などを設定し、シミュレーションした結果が屋外騒音分布出力例=図参照=だ。

 このように、計算対象が属性付きで3次元モデル上に配置されていれば、計算方法を変えながら、シミュレーションできるし、計算結果を3次元で色分け表現し、さらに動画表現で経時的な変化も視認できる。


 □デジタル連携の適用範囲を施工管理に拡げる中で視野に入ってきたBIM-FM連携への近未来□


 高砂熱学では、BIMによるデジタル情報の連携範囲を施工管理にまで拡げている。施工現場での資機材の納品・取り付け・試運転など多岐にわたる工程で行う検査に機器データを援用し、結果を施工現場で一元管理するため、それらシステムを実装したタブレットを現場作業所に配置し、運用している。

 竣工後の建物のランニングコストのかなりの部分を設備関連機器が占めるのが自明である中で、設計施工時の「氏育ちの良い」設備の3次元モデルが経年的な維持管理に援用できればメリットは大きい。

 自己完結的にも運用してきた設備BIMをBIM-FM連携へと拡張するべく、高砂熱学では挑戦を開始した。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)