BIMのその先を目指して・40/樋口一希/VR技術で管理組合員の合意形成

2018年2月15日 トップニュース

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 大京グループの工事分野を手掛ける大京穴吹建設では、マンション改修工事後のイメージを共有し、管理組合の合意形成促進を目的に「VR(バーチャルリアリティー)技術を導入したマンション共用部改修工事提案」を開始すると発表した。前回に引き続き、動向に注目が集まる不動産テック=ReTech(Real Estate Technology)を巡る文脈の中で概説する。

 □改修工事の審議段階で管理組合員全員が参加するのは困難との課題をVR技術での合意形成で改善□

 大京穴吹建設は、13年7月から展開中の修繕工事ブランド「Plusidea(プラシディア)」の一環として、多くは有償で提供されているマンション共用部改修工事の設計図やパースなどを管理組合へ無償提供、改修工事後の実際をよりよく理解してもらうべく施策を講じていた。一方、現状で改修工事に関わる意思決定は、理事会や修繕委員会などの代表者が中心となり審議、総会で承認を決議するプロセスが多いため、改修工事の審議段階で管理組合員全員が参加するのは困難との課題もあった。
 そのため大京穴吹建設では、VR画像で改修工事後の実際を疑似体験してもらうのと合わせて、QRコードを用いて管理組合員がいつでもVR映像を確認できるようにすることでより多くの管理組合員に改修工事に関する議論に参加してもらうことを目指している。

 □ストック型社会の実現に向けICTを用いた不動産テックに象徴される新たなソリューションを喚起□

 少子高齢化、労働力不足、ポスト2020年問題などマクロ的な経済環境が激変する中で、昨今のようにマンションは作れば売れるという売り手市場は長続きしないのではないか。そのような危機が潜在する状況下、ストック型社会の実現に向け、ICT(情報通信技術)を用いた不動産テック=ReTechに象徴される新たなソリューションを喚起し、次世代に継承する社会資産を蓄積するのは不動産業にとっても喫緊の課題だ。
 それらの観点からマンション改修工事を捉え直すことで、改修後の建物ライフサイクルコストの最適化と資産価値向上が可能となり、翻っては顧客一人一人のLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)の増進に結びつく。
 「創る」=設計BIM、「建てる」=施工BIMによってデジタル化された建物情報は、「管理・運営する」=FM BIMへと連続的に援用されることで利用価値を拡大する。それら一連のプロセスとの関連でも、今後はマンション改修工事へのVR技術導入を検討するべきだ。

 □広がりを見せる不動産を巡るあらゆるシーンでVRなどを援用する不動産テックの可能性□

 同じく大京グループで不動産流通事業を担当する大京穴吹不動産でも、スマートフォン向けサイト上において、売買・賃貸物件紹介時にVR技術を用いて対象居室を疑似体験できるシステム「ぐるっとネットdeオープンルームVR」を運用している。利用者は、スマートフォンサイトにアクセスしてVRゴーグルと呼ばれる箱型の装置にスマートフォンをセットする。VRゴーグルを上下左右に動かすことで右を向けば右方向、上を向けば天井や室内全体を見渡すことが可能となり、実際に対象居室の中を見学しているような疑似体験を得られる。
 スマートフォンを用いるので高価な装置も不要で全国の営業拠点での導入も進んでおり、遠方物件で見学が困難なケースや短時間での複数物件の見学希望への対応などで効果を上げている。大京グループが展開する台湾と香港のインバウンド事業においても、台湾大京および大京香港の現地事務所に本システムを導入することで、訪日なしでの物件契約も実現している。
 用地取得・開発、分譲・賃貸、資金調達(投資、融資)、取引(集客・相談・媒介・内覧・交渉・重説・契約・引き渡し・登記・アフター)など不動産を巡るプロセスにおいてインターネット、スマートフォン、ビッグデータ、IoT、AI、SNS、位置情報、AR/VRなどのテクノロジーを援用する不動産テックの可能性は広がりを見せている。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)