BIMのその先を目指して・45/樋口一希/EUのBIM導入手引

2018年3月22日 トップニュース

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 日本建設情報総合センター(JACIC)は、BIM/CIMに関する情報交換のため16年にUK BIM taskGroupとMoU(Memorandum of Understanding=基本合意書)を締結、「Handbook for the introduction of Building Information Modeling by the European Public Sector(欧州公共事業によるBIM導入の手引き)」の提供を受けていたが、このたび日本語版を公開した。

 □本書を中心的に貫くフィロソフィーがBIM状況の加速化の一助となるべく多くの方々への拡散期待□

 二度にわたる大戦への反省から誕生した欧州連合(EU:European Union)。国境を実質的になくし、通貨統合する中で、基準がバラバラだったコンドームの規格も統一したと聞くから諸分野での標準化への徹底ぶりは際立っている。理想は高邁(こうまん)だが現実は厳しく、イギリスは離脱に向かい、ドイツのメルケル氏は連立政権の樹立に手間取り、イタリアでは大衆迎合的な右派が選挙で勝利した。それでも本書を通読すると、BIMなどのデジタルツールを用いた建設業界における戦略的な効率化への強固な意志が感じとれる。
 折から国土交通省が土木分野中心だったi-Constructionを建築分野にも拡大し、18年度からは建築の施工におけるBIMの試行を「発注者指定型」で本格化すると明らかにした。BIM状況の加速化の一助となることを期待し、本書を中心的に貫くフィロソフィーがどこにあるのかを概説する。

 □未来は現実のものになりつつあり欧州全体における共通アプローチ構築を進める時期を迎えている□

 本書は、EU21カ国の公共事業をつかさどる組織の協力を受け、欧州委員会の共同出資によって運営されるBIM taskGroupが制作したもので全84ページからなる。
 序文では「過去の建設事業における生産性の向上は必ずしも大きなものではありませんでした。しかしながら、ここにきて建設業界にも他の産業部門と同様に『デジタル革命』の波が押し寄せています。BIMは、コスト削減、生産性・運用効率・インフラストラクチャーの品質の向上、より優れた環境性能を実現する戦略的ツールとして、価値連鎖のさまざまな段階での導入が急速に増加しています」「未来は今現実のものになりつつあり、私たちは欧州全体における共通アプローチの構築を進める時期に差し掛かっていると言って良いでしょう」と宣言し、巻末では「2025年までに、本格的なデジタル化により、設計・施工フェーズでは13%~21%、維持管理フェーズでは10%~17%の年間コストを削減できるでしょう。」(BCG:The Boston Consulting Group)(,Digital in Engineering and Construction:The Transformative Power of Building Information Modeling”,2016)と結論づけている。

 □第3章の「行政におけるリーダーシップ確立」の項目で実例としてケーススタディーを明示□

 第1章「はじめに」では、制作の背景、本手引書の必要性などが説かれ、第2章「一般原則」では、BIMの価値提案、BIMを奨励するために公共機関のリーダーシップが必要な理由、公共機関がBIMに対する共通のアプローチを採用する理由、欧州共通の戦略的枠組みとBIMの共通パフォーマンス定義などが明示されている。第3章「アクションのための提言」では、戦略的提言から始まり協業体制の確立、実装レベルにおける推奨事項まで、より具体的な提言がなされている。
 特筆できるのは、第3章に含まれる行政におけるリーダーシップ確立の項目で、実例としてケーススタディーが明示されていることだ。
 一例として「英国政府のConstruction Strategy 2011とBIM Programme」では、英国政府の「Construction Strategy 2011」の一環として策定されたBIM戦略が政府部門によって調達されるすべての建設資産に対し、16年までに「BIM」の利用を義務化するもので、英国ではこれを「BIM Level 2」と定義していること。後に、この義務付けが「Construction 2025」および「Construction Strategy 2016-2020」において閣議決定により補強されたことを解説している。
 巻頭で「本書は形式及び媒体を問わず特定の許可なく無償で複製可(ただし物質的および金銭的利益のための複製は不許可:複製する際には、内容の正確性を維持し、誤解を招くような文脈での使用は避ける必要有)」とされているので読者各位もダウンロード+拡散してほしい。
 http://www.cals.jacic.or.jp/CIM/pdf/EUBIM_Handbook_JPN.pdf
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)