BIMの課題と可能性・114/樋口一希/維持管理への援用-大林組の実践例・下

2016年6月2日 トップニュース

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 大林組が運用を開始したBIMによる「創る」ための建物モデルを援用する建物維持管理ツール「BIMobile」の詳細について報告する。


 □点検対象の設備機器などの選択で3次元モデル上ではハイライト表示+図面上でも視認可□


 建物の維持管理業務を概観すると、竣工時の(出力)図面や設備機器類のドキュメントなどに基づきアナログ的に実施されている。図面など紙の情報は散逸しやすく、携帯も困難で、緊急時は勿論、日常的な点検業務も非効率の最たるものだ。建築主の側からも、設計・施工時のBIMによる「創る」ための建物モデルを維持管理に援用し、作業コストを軽減できないのかとの要請も生まれつつある。

 「BIMobile」では、サーバー上のBIMによる建物モデルをベースに、ラティス・テクノロジーのXVL技術で軽量化された3次元モデル+属性情報をiPad上に表示するとともに、点検記録などの情報、取扱説明書などのドキュメント、図面、写真などを関連付け保存できる。

 図は空調配管に付属するファンを選択した際のiPad画面。リストから対象のファンを選択すると、3次元モデル上で、当該ファンが赤くハイライト表示され、合わせて平面図上でも位置を視認できる。点検記録などの追加情報は、サーバーにExcelのファイル形式で保存され、必要に応じて報告書に転用できるなど、利用者の利便性に配慮したシステムとなっている。


 □BIMによる「創る」ための建物モデルがIoT技術と組み合わされ動的に運用される可能性□


 設計段階の『形態情報:Modeling』と『属性情報:I=Information』を1対1で製造工程に引き継ぐ製造業を顧客とするラティス・テクノロジー側からすると、理解しにくい建築固有の課題も顕在化した。どの段階の『形態情報』の精度=縮尺に基づき3次元データを軽量化し、どのような内容の『属性情報:I=Information』を採用するのかなどであった。「設計(施工)BIM」と「FM-BIM」で必要な建物モデルが異なるのは、建築固有の課題であり、システム面での問題ではないとの共通認識のもと、それらの課題は「BIMobile」の運用面で解決するとの結論に至った。

 従来のアナログ的な維持管理は、極めて静的(スタティック)なものだ。日々休みなく稼働している建物の維持管理では、本来、デジタル技術を用いた動的(ダイナミック)な対応が必須となるべきだ。設計・施工段階の「創る」ためのBIMによる建物モデルがIoT(Internet of Things)技術などと組み合わされ動的に運用される可能性に、「業としての建築」内部でBIM担当者は気付き、建築主の中からも注目が集まっている。建物維持管理ツール「BIMobile」は、IoT技術との連携で、より動的(ダイナミック)なシステムへと変身する可能性を秘めている。今後の展開も注視していきたい。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)