BIMの課題と可能性・139/樋口一希/奥村組の「初めての施工BIM」・2

2016年12月22日 トップニュース

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 新築工事中の奈良県総合医療センターでのBIM運用について前稿で報告した奥村組。施工中も含めて全15件に及ぶBIM案件の中から特徴的なものを選び、紹介する。


 □BIM運用を前提に受注した他社設計案件にBIM推進グループが対応し「施工BIM」実現□


 「施工BIMのスタイル-事例集2016」(日本建設業連合会)のP18~19に、「元請の施工BIM 03」として掲載されているS造の生産施設。約1年半前、BIM運用が前提の他社設計案件として工事を受注したもので、営業部門からの要請も受け、産声を上げたばかりのBIM推進グループが対応の最前線となった。

 建築設計事務所からは、意匠モデル(ArchiCAD)・構造モデル(Revit)・設備モデル(Tfas)からなる設計BIMモデルが提供され、奥村組では、データ連携フォーマットであるIFCを介してBIMソフト「ArchiCAD」上に建築・設備の統合BIMモデルとして合成、工事所では施工統合BIMモデルとして運用した。

 誕生直後のBIM推進グループは、「工事所のことは工事所(課題解決は課題発生源)で」の方針で「ArchiCAD」に習熟した常駐オペレーター1名を工事所の施工図担当と協働させる緊急策をとった。その結果、工事所が積極的にBIM運用に関わったこともあって、メンテナンス用キャットウォークの確保、設備配管の干渉チェック、各所納まり確認など、関係者間の合意形成に効果を発揮、まさに「初めての施工BIM」として、それ以降の本格的なBIM運用の契機となった。


 □バーチャル空間で搬入+建て方のシミュレーションを行い「時間+手順+物流」を見える化□


 阪急西宮北口のS造地下1階地上10階建ての商業ビル。工事所にワークステーションを持ち込み、オートデスクのプロジェクトレビューソフト「Navisworks」のタイムラインビューを用いて異型建物、狭小敷地における施工計画のシミュレーションに援用している。

 生産拠点(工場)が常態的である製造業と比較して建設業の施工現場は、竣工すれば影も形もなくなり、テンポラリー(一時的)であるが故に、逆説的に、ロジスティックス(logistics)と3Dに続く四つ目のD(dimension:ディメンジョン)である時間に関わるBIM=デジタル技術が威力を発揮する。

 ファブリケータから搬入された鉄骨部材は、仮置き場に一時保管されるが、交通量の多い駅前の狭小敷地のため保管=搬入量に限りがあり、工区分け+建て方の進ちょく度合いとの調整に厳密さが求められる。また、省力化の観点ではタワークレーンの配置に至る最適化までも求められる。BIMモデルを援用すれば、あらかじめバーチャル空間上で搬入+建て方のシミュレーションができ、それらの効率追求とともに、安全性の確保にも結びつく。

 表計算ソフト「エクセル」と連携する工程管理システムも稼働しているが、BIMモデルのI=Informationとの関連付けによって、エクセル側の表を操作することで、施工モデルの側の建て方を(逆)制御するなど、「時間+手順+物流」の更なる見える化も視野に入ってきた。

 16年は取材を通して「BIMがすでに離陸し巡航速度に向かいつつある」と確信できた1年だった。17年はIoT(Internet of Things)からCIM(Construction Information Modeling)に至るまで、より広範囲に深く現況と課題を掘り下げ、読者に一定の指針を届けるべく活動を続ける。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)