BIMの課題と可能性・142/樋口一希/進化を続ける鹿島のBIM・2

2017年1月19日 トップニュース

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 「Global BIM」の報告以降、2年を経て、鹿島は、すでにBIM運用の定量的な目標は達しつつあり、次なるパラダイム・シフトへと舵を切った。


 □施工現場稼働率の実績値80・5%を支える国内2カ所、海外5カ所の拠点での24時間BIM運用□


 鹿島は、13年のBIM運用開始を経て、国内430の建築プロジェクトにおけるBIM援用を実現、施工現場単位の稼働率も16年10月には80・5%となり、17年3月末には100%を達成する勢いだ。同時並行して推進している「労務の3割削減活動」とも相呼応して、より一層の生産性向上も目指している。

 全社的なBIM運用を支える本社BIM推進室は13名から構成され、支店と提携会社を含めたBIM推進組織全体では総勢180名に及ぶ。モデリング拠点は、国内2カ所、海外では韓国、フィリピン、インドの3カ所を運用していたが、セルビアと南米にも新たに拠点を設け、時差を逆手にとった24時間のモデリング体制とする予定だ。これによってBIMの運用効果が顕著な中規模以上の建築プロジェクトへの迅速な対応を実現した。


 □第四次産業革命の建築版ともいえる鹿島のBIM運用を可能にしている三つのメルクマール□


 一品生産であるが故に、「施工(現場)のことは施工(現場)で解決」と、強く施工現場に依拠する施工BIM運用が果たしてネットワークを介して国内外で可能なのか。いかにして国内現場で稼働率100%を実現しつつある24時間分散型のモデリング体制構築に向かったのか。ICT(情報通信技術)を駆使して製造業の革新を目指す第四次産業革命(Industry4.0)の建築版ともいえる側面から鹿島のBIM運用を再度、考察してみる。

 1.BIM以前の徹底的な業務分析で「基本モデル」をマイニング(発掘)

 設計施工比率は高まりつつあり、BIMが優位性を発揮する一方で、施工からのプロジェクトに対しても鹿島は、可能な限り工程初期に、施工BIMモデルを作成するノウハウを構築した。

 徹底的な業務分析の結果、活用目的に合わせフレキシブルに情報を追加できるよう、最初の入力情報は必要最小限に抑えた「基本モデル」作成のルール作りを行った。現業の中から「基本モデル」をマイニング(発掘)した段階で、BIM以前に鹿島の施工BIM成功は担保されていたといえる。


 2.「メディア」「コミュニケーション・ツール」としてのBIMの(再)構築

 BIMソフト「ArchiCAD」には、「基本モデル」作成のルールとテンプレートが装着されており、その手順に従いモデリングを実施することで「基本モデル」が作成できる。その後、「基本モデル」は、高速でセキュアなクラウド+ネットワークを介して、専門工事業者や外注の施工図事務所と協働するなど、目的に応じて再加工され、詳細度の高い施工BIMモデルとして施工現場へと至る。

 BIMソフトのチームワーク機能を拡張し、訂正箇所への朱入れができる独自ツールも運用している。組織も国境もやすやすと超えていくデジタルの優位性を最大限に発揮するべく、BIMは優れたメディア=コミュニケーション・ツールとして(再)構築された。


 3.BIM運用を定常化する「人材育成のための教育体制」の充実

 BIM運用と並行して教育体制の整備にも力を入れている。BIMへの意識を高めるため、誰もがBIMの基本操作を学習できるようeラーニングを採用、合わせて建築施工系社員には入社3年次にBIM演習も実施している。BIMで施工計画が立案できる人材の育成を直近の目標として定め、本社の研修室も拡大、17年度中には全現場の施工計画に適用する計画だ。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)