95周年特集/対談/森昌文首相補佐官、奥村太加典全建会長 2

2023年10月16日 特集 [5面]

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 ◇森氏/日本と地域の元気維持に貢献を
 ◇奥村氏/“新4K”を具現化させ展望開く

 □生産性向上の鍵は3Dデータ活用とPCa化□

 森 これも言い始めて10年ほどたつが、BIM/CIMのデータで積算が行えなくてはいけない。工期も自動算定できるだろう。BIM/CIMで上がってきた数量でたちどころに積算ができるようにするなど、いろいろなフェーズでデータ化して生産性を高めていく努力が求められる。そうした積算の効率化などで働き方改革や週休2日の実現にもつなげていける。数量が出てきても積算に移行できなければ原則適用の効果は限られてしまうだろう。

 奥村 私たちとしても積算、工期の算定などにもBIM/CIMのデータが活用されていくことを期待したい。限られた職員で業務に当たっている地方自治体などが発注する工事での効果は大きいだろう。

 森 高齢化が進み、労働力が逼迫(ひっぱく)している状況では、プレキャスト(PCa)化ももっと進めるべきだと考える。PCa化でコストは上がるが、工期短縮などの効果も踏まえ、代替案として選択できる仕組みが必要だ。市町村の小規模施工でも使えるよう、まずは国が基準づくりをする必要があるだろう。

 奥村 PCa化でコスト高となるのが実情だが、例えば1人当たりの施工高、生産性を従来工法と比較して採用できるよう制度化できないのだろうか。

 森 なかなかそこに至っていないのが実態と言える。工期や投入するマンパワーなどを定量化できれば、奥村会長が言うように制度化できるものと考える。

 奥村 建設現場でPCa化が進めば、天候に左右されない施工を実現でき、工期面でも効果が大きい。

 森 高速道路会社では高架橋の床版打ち替えにPCa工法を採用している。以前であれば適用は難しかったであろうが、交通規制の時間を最短にするために現在は当たり前になっている。規制期間などを加味した全体の積算システムをつくらないと、採用を働き掛けても普及は難しい。本来ならコスト高となるコンクリート殻のリサイクルが進んだように、基準を作れば積算が行われて普及していく。コストの壁はあるが、そうした事例もあり、建設業界からも要望してはどうだろうか。

 奥村 ぜひそうなってほしい。工程や通行止め期間を短くできるなどのメリットをもっと表に出していけば、PCa化へ誘導することができると思う。単にPCa工法を使ってくれと言うだけでなく、具体的なメリットは何か、プラスアルファのところを添えて要望することが求められる。

 森 自治体にはこうしたことを検討する技術職も少なくなっている。そういう意味では自治体での仕事のやり方も、以前のように設計、積算して発注するというのではなく、包括委託などで業務を簡素化することも必要だろう。業界のノウハウ、企業の技術力を使わせていただき、自治体の足りないところを補い、それがひいては企業の安定性、経営力の向上につながっていく仕組みが求められる。これから新規建設ではなく維持・修繕、メンテナンスなどが増えてくる中で、そういった業態、仕事の仕方になじめるような企業となるための研さんについても全建には考えてほしい。

 奥村 下水分野では包括的民間委託のプロジェクトが出てきている。まさに地域に密着した形で携わることが必要であり、そういう点では全建会員に向いたプロジェクトと言える。全体の技術者数が減ってきている中で、発注者の業務の一部を受注者が肩代わりさせていただくなどして、無駄のない仕組みをつくっていかないといけない。地域建設業はこうしたことが十分担える力を持っており、積極的に貢献していきたい。

 □デジタル田園都市国家構想の実現にも□

 森 岸田内閣はデジタル田園都市国家構想を推進している。地域経営をどうデジタル化していけるか。この部分には当然、建設、交通、ヘルス、高齢者などをキーワードとする事業がたくさんある。それらを応援するためにかなり大きな予算を付けて取り組んでいる。デジタル化に積極的に取り組んでいる建設業だからこそ、デジタル田園都市国家構想の一部を担うことも可能ではないかと考える。本業をやっていただいている中で、得意分野を地域経営に生かしてほしい。

 奥村 地域に根差している建設業は、同じ地域で生産する農業、林業、水産業と近いところにある。既に取り組んでいる建設会社もあるが、今後、世界的な食糧難などが懸念される中で、1次産業に対する建設業の取り組みも重要になるだろう。

 森 地域の建設業は、DXやITなど技術分野の支えであり、日本、地域の元気維持のために貢献していただける領域が広い。インフラの建設、メンテナンス、つくり直しなどは専門としてやりつつ、地域経済を元気にしていくにはどうするのかについて、もう少し多角的に応援していただけるものがあっていい。自動運転、ヘルス、再生可能エネルギーなどにも、地域を知る建設業の知恵を生かしていただきたい。

 奥村 私たちが掲げる新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)を具現化させることこそ、地域建設業の将来ビジョンと考える。賃金が他産業と比べて見劣りしない、休暇がしっかり取れる、将来性があって希望を持てて、そしてITなども駆使して仕事をする格好良い建設業にしていかなくてはいけない。建設業の貢献領域が広がっていくことで新たな格好良さも見えてくるだろう。いろいろなスキルを持って活躍できる人材がそろった格好良い建設業を目指したい。

 森 最後にこの対談と紙面を通じ、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場(大阪市此花区夢洲)整備に当たって、建設業界には海外パビリオン建設への参画を切にお願いしたい。本来なら各国のデザインに特化したパビリオンをつくってほしいが、現状は資材高騰や工期が厳しい状況である。各国独自のパビリオンを増やすべく努力しているところだが、最終的には建設業の力を借りて、プレハブのパビリオンもつくり、内外、周辺のファサードでそれぞれの良さを見せていただこうとしている。

 奥村 新たに「タイプX」と呼ばれるプレハブパビリオンが提案されたことで光明が見えてきたと感じている。各国・地域が設計・施工する「タイプA」のパビリオンを今からやるのは非常に困難であろう。個社のことで言うと、これから受注する工事にすぐ着手するには今動いている他の建設工事を止めて、その人員を当てなければならない。阪神・淡路大震災のとき、大阪市も含めて紀伊半島はほとんど被害がなく、この地域の民間発注者から復旧工事に行くなら工事を止めてもいいと言っていただいた。今回もそうしたことなどが求められ、大阪府、大阪市から先鞭を付けていただくことが必要ではないだろうか。

 森 国、大阪府、大阪市として協力できることをさらに詰めていきたい。