政府が2026年に利用廃止とする方針の約束手形を巡って、国土交通省は建設業界内の商習慣の適正化を急ぐ。下請法を改正し16日成立した「中小受託取引適正化法(取適法)」で同法の適用対象となる下請取引の代金支払いに手形利用を禁止するが、この規定を建設業法ですぐさま準用することには慎重な姿勢を見せる。他産業の取引に比べて代金支払いまで長期間を要する傾向があるといった建設工事の特性を踏まえ、当面は民間発注者への要請などサプライチェーン(供給網)全体での取引適正化を推進する。
手形禁止を含む取適法の規定は26年1月1日に施行する。同法では支払い期日を製品や役務の受領から60日以内と規制しており、それまでに現金払いが求められる。電子記録債権やファクタリングも支払い期日まで満額の現金化が困難であれば認めない。
建設工事の下請取引は取適法が適用されず業法で規制。請負代金について元請は注文者から支払いを受けた1カ月以内に下請に支払う必要があり、特定建設業者に限っては発注者から支払いがなくても引き渡しから50日以内に下請へ支払う義務がある。仮に業法でも手形払いが禁止された場合、より厳しい規制になることが想定される。
下請法改正案の国会審議中、業法上の手形の扱いを問われた国交省は、取引金額の大きさや工期の長さから代金支払いまでが長期化する建設工事の特性に加え、既に業法で元請に下請代金のうち労務費相当分を現金払いとする配慮義務があることを説明。その上で「手形払いを禁止した場合の建設業者の資金繰りへの影響を十分に見極めていく必要がある」(堤洋介官房審議官〈不動産・建設経済局担当〉)と指摘した。
政府方針として「手形払いの利用廃止に努める」(同)としつつも、法令上の対応は明言しなかった格好だ。当面は業界への働き掛けに注力し、建設業者には現金払いに加え、手形払いでも割引料などコスト負担を押し付けない元下間の協議を要請。さらに「民間発注者には前払いや期中払いによる支払い条件の改善を働き掛ける」(同)。「建設Gメン」の実地調査で手形の利用状況を把握し、必要に応じ助言・指導する。
26年以降は手形を現金化する金融機関の対応も限定的になる。全国銀行協会は手形の決済を行う電子交換所の運用を27年度初めで終了すると3月発表した。