2024年6月成立の改正建設業法・公共工事入札契約適正化法(入契法)でICT活用による現場管理が特定建設業者と公共工事受注者の努力義務となり、同12月13日に施行された。工事施工や施工管理でICTを活用する際の参考として国土交通省は「ICT指針」を公表。実際の現場でICTを導入した事例集も順次拡充し、好事例を水平展開する。民間各社の設備投資を後押しするため、中小企業庁の「中小企業省力化投資補助金」などの活用を呼び掛ける。
改正法ではICT活用に関する元請から下請への指導、公共発注者による受注者への助言・指導を併せて努力義務化する。建設業向けのICTツールが市場に多く出回り先進的な企業で導入が進むが、広く業界に普及・浸透している状況にはなっていない。業界全体で担い手確保が課題となる中、ICTを切り口に現場管理の効率化・生産性向上を促進。ICT指針を通じ設備投資と人材育成の両面で対応を働き掛ける。
ICT指針は「工事施工」と「施工管理」に分け、経営規模や工事内容に応じたICT導入の取り組み内容や留意点を解説。工事施工での具体例として▽ドローン▽トータルステーション▽3Dスキャナー▽BIM/CIM▽ウェブカメラ・ウエアラブルカメラ▽電子小黒板▽建設用ロボット-の7種を示す。施工管理では書類作成や財務・人事・労務管理などのICT化に焦点を当て、民間の施工管理システムと建設キャリアアップシステム(CCUS)の積極的な活用を促す。
指針では目指すべき方向性として、新技術の効率的・効果的な活用には「業務プロセスや商慣行の見直しと併せて総合的な取り組みを進める必要がある」と指摘。ここ数年で企業の垣根を越え、各社が共同で技術開発・研究する動きが出てきており「建設業者間などでの連携・協働の観点がより一層重要」と強調する。
企業間連携の一例として事例集では、ロボット分野などでゼネコンらが技術連携する「建設RXコンソーシアム」の活動を通じ開発された自律走行型照度測定ロボットを紹介。開発をきんでんが手掛け、コンソーシアム内の「照度測定ロボット分科会」(主査・鹿島)で機器改良や操作マニュアル整備、施工管理アプリと連携した帳票作成の共通ルール策定を行った。通常は夜間の現場内を歩き回って行う電気設備の照度測定作業を省力化できる。販売・レンタルで普及させるスキームを検討している。
24年12月に第1版を公表した事例集は、3月公表の改定版で9事例を追加。現時点で計21事例を掲載している。当初は「工事施工」の事例が中心だったが、改定版で「施工管理」の事例を重点的に拡充した。
施工管理の事例で書類業務や請求処理の電子化とともに、CCUSと施工情報共有システムの連携による技能者の入退場時間の一元管理に取り組む企業がある。技能者の就労実態を見える化し、業界全体で目指す4週8休実現への現状把握・対策検討に役立てている。別の企業ではクレーン作業で想定する支障物との接触箇所などを3D図面で可視化。発注者との事前協議の円滑化や事故リスク軽減につながった事例があった。
ICT活用のネックとなるコスト負担を軽減するため、国交省は建設会社が活用できる政府の支援措置を周知。施工管理などに用いるシステムやアプリのソフト機器を対象とする中企庁の「IT導入補助金」に加え、主に物理的な作業負担を軽減するロボットなどのハード機器を対象とする「中小企業省力化投資補助金」の活用を促す。
省力化投資補助金はカタログから汎用(はんよう)製品を選ぶ簡易なプロセスで支援を受けられる使い勝手の良さが魅力だ。まずは中企庁や各業所管省庁の協議で製品カテゴリーを設定。これに沿ってメーカーなどの応募で個別製品をカタログに登録し、その上で企業の交付申請を受け付ける流れとなる。
カタログ掲載の製品を導入する場合、その費用の2分の1以下を補助する。補助上限額は企業規模で異なり、従業員5人以下が200万円(大幅な賃上げを行う場合300万円)、6~20人が500万円(750万円)、21人以上が1000万円(1500万円)。
建設業向けの製品は13種類のカテゴリーが設定済み。ただ、実際にカタログに製品が登録され、建設会社の交付申請を受け付けているのは6種類と少ない。特にICT建設機械や現場作業ロボットなど施工の省力化につながりそうな製品は、ほとんど交付申請を受け付ける段階に至っていない。建設現場の幅広い作業に活用できる製品カテゴリーの拡充と、個別製品のカタログ登録の進展が待たれる。