商習慣を変える-改正建設業法・2/担い手確保へ「選択と集中」を

2025年6月11日 商習慣を変える-改正建設業法 [1面]

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 ◇競争環境適正化で質の評価に
 「仕事が暇になり、価格が下がってくる空気感がある。このタイミングでメスを入れないと、ずっと変わらない」。請負価格が仕事量の繁閑に左右される環境下では、閑散期に廉売行為が横行する。担い手を確保し賃上げに取り組もうとする企業の足かせとなるこの環境を、打破しなければならない。建設産業専門団体連合会(建専連)の岩田正吾会長は、改正建設業法を踏まえた現場のマインド転換を訴える。
 キーワードは「選択と集中」だ。単に価格が安い方を選ぶのであれば、継続的に担い手を確保・育成する余裕はなくなり、将来にわたる施工能力の維持は難しくなる。下請選定の評価指標を「価格」だけに置くのではなく「忙しい時のことを考えて、この暇な時期こそ(担い手を確保できる企業を)選択し、集中して仕事を出してもらいたい」。「労務費に関する基準(標準労務費)」の導入は、取引先との共存戦略を描くきっかけになると説く。
 標準労務費は「公共工事設計労務単価×標準的な歩掛かり」の計算式で単位施工量当たりの労務費として示される予定。中央建設業審議会(中建審)のワーキンググループ(WG)では、技能者の雇用に伴って建設業者が負担する必要経費の参考値を同時公表する方向が固まった。
 見積もり・契約段階で設計労務単価と必要経費の参考値という「固定」の数値が組み込まれ、現場では生産性の評価指標となる歩掛かりの交渉に焦点が当たる。標準労務費を活用した交渉が浸透することで競争環境が適正化され、「価格だけの評価から、質の評価に変わる」と期待する。
 「今までは質が高くても、価格が低いところに合わせないと仕事が取れなかった。経費を圧縮し、労務費に手を突っ込んで会社を持たせてきた。すると体力もなくなり、余計なことはしなくなる。将来を考え、自社で職人の育成を始めた会社からつぶれていった」
 標準労務費の導入で価格だけで競える範囲が狭まる。担い手確保や処遇改善など企業の前向きな取り組みや持続可能性がフォーカスされ、元請や発注者から評価される機運を生み出したい考えだ。先んじて取り組む企業が競争で不利にならないよう、国土交通省の建設Gメンや、関係省庁が連携した行政指導の強化も同時に求める。
 標準労務費の運用に当たって、こだわっているのは「請負」の形を残すことだ。生産性向上で得られる「請負のうまみ」を残し「優秀な職人、組織がもうかる仕組みでなければならない」と強調する。
 労務費を切り下げず、雇用に伴う必要経費も適切に支払うルールが確立されれば、直用技能者を抱えてこそ請負のうまみが得られる。そうなれば「重層化は自然と減っていく」とみる。鉄筋や型枠など、標準労務費を先行して作成すると見込まれる職種には、こうした業界構造の変化を先んじる役目が出てくる可能性もある。

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