◇情報開示求める「権利」必要
昨年の建設業法改正に至る検討過程で、目指す方向性として掲げられた「持続可能な建設業」。CM(コンストラクションマネジメント)会社として、受発注者の間を取り持つ立場で業界を見てきた山下PMCの丸山優子社長は、このフレーズを聞いて「持続“不”可能な業界だと国が思っているのか」とショックを受けた。
担い手不足にあえぐ業界の現状を招いたのは「建設業界のみならず、発注者も含めたサプライチェーン(供給網)全体の責任だ」と喝破する。中央建設業審議会(中建審)のワーキンググループ(WG)で委員を務める中で「ステークホルダーのそれぞれが当事者意識を持ち、慣習や常識とされてきたことにメスを入れなければならない」と痛感している。
民間工事で主流の総価一式の請負契約が、今の時代に合わなくなっている。担い手不足に起因し需給バランスが崩れた結果、「資材価格の高騰だけでは説明が付かない工事費の上がり方をしている」。肌感覚では10年前に比べ総価で2・5倍から3倍の金額に上昇。個々の資材や労賃の値上がり幅を優に超えている。「これほど工事費が上がっているのに、実際に働いている人の賃金が上がっていないことが不思議で仕方ない」と本音を吐露する。
発注者の立場から見ると、昨今の工事費の急騰には「納得感」がなさ過ぎる。価格転嫁などの必要性を判断しようにも、請負構造の中で価格形成の流れが不透明なままでは、金額に対する「蓋然(がいぜん)性」「妥当性」が圧倒的に足りない。「発注者も契約の当事者として(リスクとリターンの)責任から逃れられない。ただ責任を取るからには、納得感が得られるだけの情報の提供が必要だ」と説明する。
こうした観点で「労務費に関する基準(標準労務費)」の実効性確保策に挙がる「コミットメント」制度は、発注者の立場からも「絶対に必要だ」と話す。世界的に人権擁護が企業に求められる中、これまで不可視となっていたリスクを回避する仕組みになり得る。
契約段階の見積もりで適正な労務費が確保され、受注者には下請・技能者への労務費・賃金支払いを約束してもらう。その情報の開示を請求する「権利」を発注者が持つことが、「発注者側の『責任』を果たすと同時に、『立場』を守るために必要だ」と強調する。
中建審で議論に参画しながら、標準労務費に代表される国主導の施策は建設業の「マイナスをゼロにする」取り組みと映ってきた。一般論としてボトムを上げるより、トップを引き上げる方が全体をつり上げる効果が高い場合がある。私見だが「標準労務費をつくることでトップラインが固着化するのは怖い」との疑念がないわけではない。
担い手減少の歯止めとなるだけでなく、新たな入職者を迎えるためにも、世界に誇れる日本の建築・建設業の技術や品質、ものづくりや手仕事の素晴らしさなど「そもそもプラスのものをさらに伸ばし、発信していく」ことが必要と訴える。次世代に何をつなげられるか、業界全体で踏み込んだアクションが期待される。