◇利害超え、知恵出し合い議論前進
改正建設業法で定める「労務費に関する基準(標準労務費)」の実効性確保策で大筋の方向性が固まるまで、中央建設業審議会(中建審)のワーキンググループ(WG)では計8回の議論を要した。官民の発注者から元請・下請、労働者団体まで、利害関係も交錯する中で着地点を見いだすのは一筋縄ではいかない。本音で意見を交わすため非公開の会合も2回挟んで合意にこぎ着けた。
議論を繰り返しながら、業界に対する委員らの問題意識は一層強く共有されたと言える。担い手確保に向け処遇改善を急ぎ、この機会に旧来の商慣習を改める必要がある。3日の第8回会合では事務局の国土交通省の呼び掛けで、取るべき施策についてサプライチェーン(供給網)に連なるすべての主体が知恵を出し合い「できることはすべてやる」覚悟で議論を前進させることを全員で確認した。
全国中小建設業協会(全中建)の土志田領司会長は、事前防災対策による被害軽減が結果としてコスト縮減につながることを例に取って「賃金も一緒だ。今こそ上げて、働く人が目指す業界にすべき。本当にいなくなってから手を打っては遅い。そういう状況はすぐそこまで来ている」と早期の対策実行を訴えた。
最後まで委員間で意見の相違が目立った施策の一つが、労務費・賃金の支払いを契約当事者間で約束する「コミットメント」制度の導入だ。元請が直接タッチできない2次下請以下の賃金の行き渡りまで責任を負わされるとの懸念の声があり、国交省は3日の会合で当初案から一部修正した内容を提示。全国建設業協会(全建)を代表し委員を務める荒木雷太岡山県建設業協会会長は「これまで反対意見を言わせてもらったが、事務局と議論し今回は十分にくみ取ってもらった」と理解を示した。
すぐに答えを出さずに継続的な検討事項となった論点もある。国交省は賃金支払いの状況確認や適正化指導に、行政機関だけでなく建設業界も主体的に関与することを提案してきた。ただ建設業団体や、別途設置する第三者機関が確認主体となることには否定的な意見も多い。日本建設業連合会(日建連)の白石一尚人材確保・育成部会長も3日の会合で「慎重に検討してほしい」と改めて要請。各施策の具体化には議論を継続し一つずつ課題をつぶしていく必要があるだろう。
官民の発注者に近い立場からは、重層下請構造に問題の根があるとの認識が透けて見える。直接的な論点にはなっていないが、WGでは重層構造がブラックボックスのままでは実効性に欠けるとの意見や、今回の措置で見積もりが透明化されることで重層化の解消に効果を期待する声もある。
国交省も2024年度補正予算で重層下請構造の新たな実態調査の費用を確保。重層化に起因する非効率や技能者への不利益が生じていないか確認を始めている。業界構造の根本的な課題と捉え、業行政として何をすべきか模索する。持続可能な建設業に向け「できることはすべてやる」という姿勢が今まさに求められる。
=おわり
(編集部・沼沢善一郎)