成田国際空港の拡張整備が本格的に動き出した。滑走路の延伸と新設を軸とした「更なる機能強化」事業は、必要な用地の8割超を確保したことから、5月末に造成・地盤改良工事が始まった。残る2割の確保が焦点となる。国や県、地元自治体でつくる協議会も発足。地権者対応や代替地整備を含めた調整が本番を迎える。2029年3月の供用開始を見据え、工事と交渉が並行して進んでいる。
機能強化事業は既存のB滑走路(延長2500メートル)を北側に1000メートル延ばして延長3500メートル、幅員60メートルに拡幅する。空港の南側には延長3500メートル、幅員45メートルのC滑走路を新たに整備する。整備後はA、B、Cの3本体制となり、年間発着容量が30万回から50万回へと拡大する。
「B滑走路延伸部造成・舗装工事」は大成建設・日本国土開発JVが、「C滑走路北側造成工事」は西松建設・大林組・東亜建設工業JVが担当する。「C滑走路南側造成工事(その1)」は大林組・熊谷組・鴻池組・飛島建設・青木あすなろ建設JVが手掛ける。
工事に必要な用地は約1100ヘクタール。成田国際空港会社は、これまでに8割超の用地を確保してきたが、全域の確保には至っていない。残りの2割は地権者との調整が続く。用地確保を加速するため、同社は国土交通省や千葉県、成田市、芝山町、多古町とともに「成田空港滑走路新増設推進協議会」を発足させ、行政と連携した調整体制を整えた。地権者との契約交渉や、必要な法手続き、代替地整備などを一体的に進める。
同社の田村明比古社長は「地権者の方々はそれぞれ異なる事情を抱えている。丁寧に寄り添いながら、理解を得ていきたい」と強調。熊谷俊人千葉県知事は「しっかりと情報共有し合い、供用開始の大きな目標に向かって協力したい」と述べた。小泉一成成田市長、麻生孝之芝山町長、平山富子多古町長も自治体としての支援姿勢を明確にした。26年3月末までに用地確保のめどをつけるという。
土地取得を巡り、同社は体制強化を進めている。用地取得業務経験者を雇用するなど要員の確保に注力。社長を本部長とする「機能強化推進本部」や、代替地に特化した「代替地整備推進室」なども設置した。相談先として、弁護士や司法書士、税理士とも連携。外部専門機関も用地交渉のサポートに加わり、保証内容の確認や契約書類の作成などを進めている。
課題となっているのは移転先の整備だ。移転対象は約200戸、法人所有施設は約50件におよぶ。移転対象約200戸に対しては、土地の確保や造成など100区画以上を整備。拡張区域外の地権者からも移転先候補地の提案が寄せられている。
所有者不明の土地の権利者特定も課題となる。特定には認可地縁団体の設立支援や財産管理人制度を活用。地域への聞き取りなどを通じて法定相続人全員を洗い出した例もあるという。
話し合いは時間を要する。住民説明会はこれまでに200回以上、地権者説明や協議を含めると、延べ50万時間を費やしてきたという。事業は空港整備に伴う長年の経緯も踏まえた丁寧な対応が不可欠となる。地域との信頼関係を保ちながら事業を進めることが求められており、説明責任や合意形成の重要性が強調されている。
現在進めているB滑走路の造成工事や、C滑走路の地盤改良の裏で、こうした地道な作業が続く。長年にわたりその土地で暮らしてきた地権者も多く、説明を尽くす姿勢が問われる。
空港の拡張は地域の生活にも直結する。単なるインフラ整備ではなく、まちづくりと向き合う作業でもある。事業が本格化する中、今後も用地確保に向けた取り組みが続く。