プロジェクトアイ/北海道新幹線札樽トンネル富岡工区

2025年7月15日 工事・計画 [10面]

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 ◇技術と知恵を結集し困難な施工条件に対応/施工は飛島建設JV
 北海道新幹線の札幌延伸工事では、軟弱地盤への対策や巨大な岩塊の出現など、さまざまな課題が立ちはだかっている。ゼネコン各社はそれぞれの技術と知恵を結集し、困難な施工条件に対応している。札幌と小樽をつなぐ全長約2万6000mの「札樽トンネル」では早期開業を目指し、急ピッチで工事が進む。このうち全長約4500mの「富丘工区」を担う飛島建設JVの現場を取材した。
 同工区では、着工前の調査で自然由来の重金属が発見された。発生土受け入れ地確保に時間がかかり、着工の遅れを余儀なくされた。飛島建設の寺島佳宏所長は「もともと厳しいスケジュールの中で着工できず、工程の短縮策が求められている状態だ」と話す。
 掘削延長は約4500メートルで札幌工区、銭函工区、石倉工区に次いで4番目に長い。山岳部を掘り進めるため、発破による掘削を繰り返すNATMを採用している。
 当初は1方向での掘削を予定していたが、着工の遅れを踏まえ計画を変更。トンネルの中間地点につながる斜坑を起点に、小樽・札幌の両方向への同時施工に切り替えた。寺島所長によると「掘削途中に2切羽(2方向)に切り替えるケースはあるが、着工当初からという事例は珍しい」という。掘削面が2カ所に増えたため、作業員の数も倍に増やして対応している。
 新幹線工事では、ずり出しに使うベルトコンベヤーの導入基準が延長3000メートル以上の区間に限られる。同工区では、斜坑部分を含む小樽方向(小樽側2900メートルと斜坑部分900メートルの計3800メートル)にのみベルトコンベヤーを設置。札幌方向(1600メートル)は距離が基準に満たず、ダンプトラックで対応している。
 現場ずり出しの効率を高める工夫として、斜坑部分のベルトコンベヤーに札幌側のずりも載せて搬出できるようにした。狭い斜坑でダンプが往復する回数を減らすことで「坑内の混雑が減り、安全面のリスクも軽減できている」(寺島所長)という。
 坑外に搬出したずりの仮置き場(ヤード)も1カ所では足りず、第2ヤードを追加で造成した。ダンプトラックが公道を経由せず搬出できるよう、第2ヤードへ直通するベルトコンベヤーも設置した。
 掘削作業は発破からずり出し、コンクリート吹き付け、鋼製支保工設置、ロックボルト挿入までの一連の工程を1メートル単位で進めている。昼夜施工時は1日最大4メートル、月間では60~70メートルのペースだ。
 札幌側は高速道路や住宅街の下を通過し、隣接工区で掘削されたシールドトンネルと接合する難所が控える。複合的なリスクへの対応が求められる中で「確実性を重視することが、結果的に最も事業を早く進める手段になる」と寺島所長。住宅街直下の掘削では、発破作業による振動や騒音を抑えるため、作業を昼間に限定。起爆精度の高い電子雷管を使用し、振動も震度1未満に抑えている。
 工事情報の発信にも力を入れている。現場のブログでは翌週の発破予定を公開し、住民が確認できるようにした。無料通話アプリ「LINE」を使い、発破の5分前に通知する仕組みも導入している。こうした工夫が奏功し、影響は比較的少なく抑えられているというが、寺島所長は「どんなに対策をしても音は完全には防げない。住民の皆さまの気持ちを忘れず、施工していくことが大事だ」と語る。
 現場には20代の技術者が10人在籍する。「大規模工事は誰もが経験できるわけではない。貴重な経験を生かしてほしい」と寺島所長。若手の成長を間近で感じられる環境に、うれしさを感じることも多いという。
 本社や技術研究所との連携も密にしている。振動や騒音、地質など各分野に精通した職員が現場に定期的に派遣され「応援に来てくれる社員と、現場の社員がともにレベルアップできる良い関係が築けている」(寺島所長)という。
 トンネルの掘削進捗率は、6月1日時点で76%に達し、作業は大詰めを迎えている。「安全第一」と「整理整頓」を徹底し、着実に完成への歩みを進めていく。

 □工事概要□
 ▽件名=北海道新幹線、札樽トンネル(富丘)
 ▽発注者=鉄道建設・運輸施設整備支援機構北海道新幹線建設局
 ▽建設地=札幌市手稲区手稲本町
 ▽規模=トンネル本坑4500メートル、トンネル斜坑900メートル
 ▽設計・施工監理=鉄道運輸機構北海道新幹線建設局
 ▽施工=飛島建設・梅林建設・松谷建設・高橋建設JV
 ▽工期=2018年5月23日~28年1月17日