◇アジア・アフリカの住環境改善で
国連人間居住計画(ハビタット)のアナクラウディア・ロスバッハ事務局長(国連事務次長)が日刊建設工業新聞の取材に応じ、アジアとアフリカ諸国で持続可能なまちづくりと住環境の改善に注力する方針を明らかにした。2026年から開始される4カ年の中期戦略計画を推進。すべての人に対し強靱で安全な住宅や土地、清潔な水、衛生的なサービスの提供を目指す。目標達成では、日本の建設業界や不動産業界が持つ高度な技術や専門知識の移転と共有が、極めて有効との認識を示した。
ロスバッハ氏は、22日に横浜市で閉幕した第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に合わせて来日した。アフリカ各国の首脳や閣僚と会談を重ね、都市基盤や住環境の改善で「国連ハビタットへの支援要請を直接伺い、われわれの関与姿勢も改めて確認した」と述べた。岩屋毅外相や浅尾慶一郎環境相、坂井学防災・国土強靱化担当相、古川康国土交通副大臣、小池百合子東京都知事、山中竹春横浜市長らと面談。日本の産学官による連携と貢献を強く促した。国際協力機構(JICA)とは今後の協力体制強化の覚書を交わしている。
TICADの成果文書「横浜宣言」では、国連ハビタットが事務局を務める「アフリカのきれいな街プラットフォーム(ACCP)」の取り組みも盛り込まれ、廃棄物管理の喫緊性が明記された。アフリカ地域における持続可能で衛生的な都市環境と健全な生活基盤の構築が目指されている。20日と21日にはACCPの総会も開催され、「日本の有する技術と知見をアフリカ諸国と共有する重要な契機となった」との評価が示された。今後3年間の行動計画として「新・横浜行動指針」も採択された。
都市化が加速するアジア・アフリカ地域では、住宅供給の切迫やスラム化の進行、都市インフラとサービスの未整備、環境悪化といった深刻な課題が浮き彫りになっている。気候変動に起因する自然災害のリスクも高まりを見せる。世界人口の約半数が都市部に居住し、50年には割合が約7割に達すると予測されている。増加の9割がアジアとアフリカに集中する見通しだ。
ロスバッハ氏は「世界的な住宅危機」が進行していると警鐘を鳴らした。対応するには「国際的な制度改革、財源の安定確保、そして技術移転の推進が不可欠」だと述べた上で、「適切な土地を確保し、強靱かつ高品質な住宅をスピーディーかつ大規模に供給していく必要がある」と強調した。
TICADの成果は、26年5月にアゼルバイジャン・バクーで開催予定の第13回世界都市フォーラムで各国と共有される。ロスバッハ氏は「民間企業は非常に重要なステークホルダー」と位置付け、「世界中の産官学が都市課題や住環境の問題で議論を深め、新たなビジネスモデルや革新的なソリューションの創出が期待される」と述べた。同フォーラムでは、政策提言を含む「世界都市リポート」の発表や、優良事例の紹介なども予定されている。
日本国内では、アジア太平洋地域42カ国を管轄する国連ハビタット・アジア太平洋地域統括福岡本部が中核的な役割を果たしている。今年4月には、国内の産官学連携による「アジア太平洋地域の持続可能なまちづくりのためのプラットフォーム」が東京と福岡で発足。ゼネコンや不動産関連企業など、80を超える民間団体が参画している。
ロスバッハ氏は、「日本が有する高品質な住宅・インフラ、洗練された建築技術、防災の知見は、われわれの中期戦略の具体化で極めて有効な資産となる」と評価。世界都市フォーラムの積極的な知見発信と国際連携の深化を呼びかけた。