発生頻度が高まり、被害の規模も拡大する自然災害に対し、国土交通省は国土強靱化などの事前防災、災害対応力の抜本的な強化に一段と注力している。「国民の安心・安全の確保」は、これまでも今後も国交省の揺るぎない最重要課題の一つ。8月26日に公表した2026年度予算の概算要求では、緊急災害対策派遣隊「テックフォース」の体制・装備の充実や、災害復旧支援に関する新制度の創設を柱に据えた。
政府の地震調査委員会は今年1月、南海トラフ地震の30年以内の発生確率を従来の「70~80%」から「80%程度」に引き上げた。加えて、首都直下地震や日本海溝・千島海溝を震源とする巨大地震のリスクも依然高く、いつ発生してもおかしくない状況にある。国交省水管理・国土保全局の矢崎剛吉防災課長は、「大災害が発生した際、道路啓開や排水を迅速に行い、ひとりでも多くの命を守る対応を国交省が主導すべきだ」と語る。
国交省は、テックフォースの機能拡充で次々と施策を打ち出し、官民連携の強化を通じ防災体制の底上げを進めている。人材面では、防災の専門知識を有する民間人を「テックフォース予備隊員」として登用。地域企業の力を被災地支援に生かす「テックフォースパートナー」制度も新設した。さらに、有識者による助言体制「テックフォースアドバイザー」も立ち上げた。既に6月以降、鹿児島県・トカラ列島近海の群発地震では、パートナー企業の人材を実際に派遣している。
自治体との連携強化にも本腰を入れている。矢崎課長は現場での即応力こそが鍵だとし、「自治体の首長と日頃から意見交換し、国交省に期待されている支援内容を把握しておくことが肝心」と強調。災害発生時に顔の見える関係が構築されていれば、柔軟かつ迅速な対応に結び付くと指摘する。このため、国と自治体による合同の研修や実地訓練を積極的に増やし、実務レベルでの関係性を深めていく方針だ。
26年度の概算要求では、体制整備と連携強化の方向性を明確に打ち出した。装備面では、衛星インターネット通信装置や可搬型の映像伝送装置の全国配備、さらに長時間飛行可能なハイブリッド型ドローンの導入を盛り込んでいる。予備隊員やパートナーが円滑に活動できるよう、必要経費も合わせて計上した。加えて、自治体による迅速な災害復旧を後押しするため、事業監理費を支援する新制度の創設も視野に入れている。
「テックフォースの活動は、人命救助に直結する初動対応が何より重要だ。制度を整えるだけではなく、その実効性を高め、いざというとき確実に機能する体制を構築したい」と矢崎課長は語り、国民の安心と安全を守るための不断の取り組みに意欲を見せる。