◇宮崎県発注の河道掘削工事で無人化施工
旭建設(宮崎県日向市、黒木繁人社長)が、宮崎県発注の工事で長距離遠隔無人化施工を初導入した。舞台は延岡市岡元町の五ケ瀬川河道掘削工事。約16キロ離れた本社のDXルームでバックホウを操作し、バックオフィス勤務の20代女性社員がオペレーターを務めた。重機の操縦経験のない社員が遠隔施工を担当するという試みは全国的にも希少。熟練者不足が深刻化する建設業界で、多様な人材が参入できる道を開いた象徴的な事例といえそうだ。
対象工事は延長220メートルの河道掘削で、総土工量は約6800立方メートル。5月中旬に着工し9月に完了した。遠隔無人化施工は約100メートルの区間で実施。現場は川沿いの狭あい地で、重機を置けるスペースにも制約がある環境だった。安全性や作業効率を確保するためにも、新たな施工方法の導入が期待されていた。
同社は本社と現場事務所を光ファイバーで結び、現場から河川敷の基地局へ無線通信、さらに基地局と重機を無線LANで連携する独自システムを構築した。0・2秒程度の遅延で重機が操縦でき、実用的な施工精度を実現。バックホウ(バケット容量0・7立方メートルクラス)に外付けの無人化施工装置を設置し、外部からの電気信号で油圧を直接制御する。
8月8日に開いた現場見学会には、国土交通省九州地方整備局や県の関係者ら約70人が参加した。オペレーターを務めた馬越想代香さんは、7月に技能講習を修了したばかりで、重機の操縦は初めての挑戦だった。DXルームの大型モニターに映し出された複数の画面を確認しながらスティックを慎重に操作。掘削した土をキャリアダンプに積み込む動作を繰り返し、遠隔とは思えぬ滑らかな動きで見学者の目を引いた。
「重機特有の振動がないので集中しやすい。炎天下に出なくてもいいし、安全面の不安も少ない。女性や未経験者でも取り組めるのは大きな強み」と馬越さん。緊張の中にも自信をのぞかせた言葉に、見学者からは驚きと期待の声が上がった。県の担当者も「大手ではなく地元企業が主体的に挑戦したことに大きな意義がある」と高く評価した。
同社は11月に同県椎葉村で予定される治山工事でも遠隔施工を導入し、実績を重ねていく計画だ。無人化施工は災害現場など危険区域での作業が安全に進められるだけでなく、長距離遠隔操作で移動時間を大幅に削減できる利点もある。複数の現場を1人のオペレーターが対応することも可能になり、省人化にもつながる。木下哲治専務は「移動に2~3時間かかる現場も少なくない。遠隔なら家庭の事情で長時間の移動が難しい人にも就業の道が開ける」と説明。多様な人材の働き方を支える可能性を強調する。
一方で課題も残る。遠隔操作は実際に搭乗して作業する場合に比べ1・3~1・6倍の時間が必要で、効率性はまだ劣る。とはいえ、現場負担の軽減や人材の裾野拡大など、効果の大きさを考えれば、意義は小さくない。日建連(日本建設業連合会)の推計では2035年度に技能労働者が約129万人不足する見通し。黒木社長は「担い手不足が加速する中で、今動かなければ将来に間に合わない」と危機感をにじませる。
ICT施工の普及は効率や安全の向上だけでなく、若い世代に建設業の魅力を発信する効果もある。旭建設の挑戦は、地域に根差す建設業者が変革を担い、持続的に社会基盤を支えていく姿を示している。今後は他の地域企業にも広がるかどうかが焦点だろう。宮崎県での試みは同社独自の提案。発注者からの経費補助はなく民間主導で進められた。黒木社長は「施工性の改良や費用支援など、普及には産学官の連携が不可欠だ」と語り、次の一歩を見据えた。