先輩社員の机には、いつも缶コーヒーが並んでいた。コーヒー好きなのだろうか--。入社して間もない頃、そんなふうに思っていた北田さんは、後にそれが現場の職人からの差し入れだと知る。自分にはまだ、そうしたやりとりがなかった。
発注者側の業務を経験した後、「造る側に立ちたい」と思い転職した。初めは事務作業が中心で、現場との距離を感じる場面に少しだけ焦りもあった。
転機はBIMへの取り組みだった。操作は独学。モデルを作成するために図面を読み込むうち、施工図の見方などが自然と身に付いた。打ち合わせでモデルを示すと、「分かりやすい」との反応が返ってきた。「自分も現場に貢献できていると実感できた」と話す。
現場に通い、多くの人と顔を合わせる機会が増えていった頃のことだ。職人から「何か飲むか?」と声を掛けられ、缶コーヒーを手渡された。何げないやりとりだったが、現場の仲間として受け入れられた気がして「すごくうれしかった」。その出来事は今も心に残っている。
信頼関係は目に見えない。だが、日々の業務や現場での小さな積み重ねが、確かな形となって表れる瞬間がある。現在は営業部に所属し、BIMモデルの作成などを通じて工事を支えている。「今やれることをしっかりやりたい」。あの缶コーヒーが象徴する現場との距離感が仕事と向き合う心の支えになっている。
(きただ・のぞみ)








