回転窓/音で楽しむ食

2025年12月22日 論説・コラム [1面]

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 おせち料理には縁起のいい食材が使われる。その一つが数の子。多くの卵が連なっていることから子孫繁栄の象徴とされ、見た目もきれいな黄金色がおめでたい料理を引き立たてる▼芸術家で希代の美食家として知られた北大路魯山人は、数の子を正月に限らず好んで食べた。著書から引くと、水にもどしてやわらかくなったものをよく洗い、適当の大きさに指先でほぐす。花がつおか粉がつおを少し余計めにかけ、この上にかけたしょうゆが卵にあまり染み込まないうちに食べる。これが一番の食べ方だという▼数の子は「歯の上に載せてパチパチプツプツと噛(か)む、あの音の響きがよい」と魯山人。「もし数の子からこの音の響きを取り除けたら、到底あの美味はなかろう」(『魯山人味道』中公文庫)とも書いている▼来春にNHK衛星放送チャンネル(BSP4K)でドラマ「魯山人のかまど」が放送される。魯山人を演じるのは俳優の藤竜也さん。どのような魯山人像を見られるのか、全4回の放送が待ち遠しい▼魯山人の食べ方に倣い、数の子のおいしい味を堪能したい。「パチパチプツプツ」と噛む音も一緒に。