◇元下間の意思疎通、実効性担保策の進展が鍵に
改正建設業法が昨年12月12日に全面施行し、適正な労務費の相場観として国が示す「労務費に関する基準(標準労務費)」をベースとした見積もり・契約規制が発効となった。技能者の賃金原資となる労務費の切り下げを禁じ、末端まで行き渡らせるルールは、従来の請負契約の慣行にはなかった対応を建設工事の全関係者に迫る。標準労務費という新しい概念に、建設業関係者はどう向き合うべきか。さまざまな立場から見た現状を追う。(編集部・沼沢善一郎)
法施行とほぼ同時に、国土交通省が開設した標準労務費のポータルサイト(https://roumuhi.mlit.go.jp/)で具体的な「基準値」が一斉に公表された。各専門工事業団体などとの最終的な調整を経て、初弾として決定したのは13職種・分野の計99工種・作業。基準値の算出の前提となった作業内容や施工条件、個々の現場で補正して運用する際の留意事項などが1枚のペーパーにまとめられている。
「これをどう使いこなすか。いざ実行となった時、『どうやるの?』となってしまっている」。先行職種の一つとして鉄筋の基準値の検討に参加した全国鉄筋工事業協会(全鉄筋)の新妻尚祐副会長は、会員各社の実情を明かす。契約相手となる元請ゼネコンの動きも見えない中、「現場の第一線で働く人たちをどう確保していくか。ここでやらなきゃ業界が終わってしまうという危機感が、なかなか浸透しない」と本音を吐露する。
標準労務費は、すぐさま効果を発揮する打ち出の小づちではない。最初のハードルは、材工分離の見積書の作成だ。基準値を参考に労務費を算出し、材料費や諸経費とともに内訳を明示する。1トンや1平方メートル当たりの総価一式で価格交渉してきた旧来の風習を見直さなければ、先へは進めない。見積書を出す側の下請だけで打開はできず、見積書を受け取る側の元請との意思疎通が鍵を握る。
中央建設業審議会(中建審)で標準労務費の検討に元請団体の代表者として参加した岡山県建設業協会の荒木雷太会長は、実際の運用への「道はまだ遠い」と率直に言う。国交省直轄工事の標準歩掛かりとは隔たりがある小ロット工事の対応など、特に地域建設業の現場で実効性を担保する措置の具体化が課題として残されている。「(標準労務費の)考え方はいいが、肉付けはこれから」とみる。
歩掛かりなどの面で標準労務費を当てはめやすい大規模工事の現場から、試験的に運用する進め方に期待する業界関係者は多い。鉄筋や型枠は他職種に先駆け基準値を固め、労務費や経費を内訳明示する標準見積書の作成・普及も先行している。こうした先行職種の動向も突破口になり得る。
重層的な請負構造の中で、公共工事設計労務単価並みの労務費・賃金が行き渡っていく姿を、目に見える形で示す。その積み重ねで標準労務費という概念は、実体を伴うものに徐々に変わるだろう。
法施行の前後から、下請を中心とする専門工事業団体や労働者団体は、会員向けの勉強会を開くなど準備を急いでいる。鉄筋や型枠など野丁場を主体とする職種だけでなく、町場の住宅現場などを手掛ける中小零細の事業者も目立つ。業界の先行きへの不安はじわじわと広がっている。工事規模の大小を問わず、最上流の発注者を含めた全員が新しい取引ルールの「当事者」となるという認識を広く知らしめ、それぞれが主体的に動くしかない。
(次回から2面に掲載)








