◇定期点検で危険見抜けず
埋設下水管の破損に起因する埼玉県八潮市の道路陥没事故から1年がたった。進行するインフラの老朽化と、膨大なインフラを維持管理・更新する体制が脆弱(ぜいじゃく)になりつつある深刻な実態を、社会に突き付けた事故だった。「このような事故をもう二度と起こしてはならない」(金子恭之国土交通相)。国やインフラ管理者の対応が進む中で、官と民それぞれの対応が問われている。(編集部・遠藤千智)
2025年1月28日午前10時ごろ、八潮市の県道で突如、道路が陥没し、走行中のトラックが転落した。当初は直径約1メートル、深さ5~10メートルほどだった穴は地盤の崩落で徐々に拡大。最終的に直径約40メートル、深さ約15メートルに達した。約120万人に下水道の使用自粛を求めるなど、社会・経済活動に大きな影響が生じた。国や県は救助活動に尽力したが、結果として1人の命が失われた。
県が設置した原因究明委員会は、道路陥没の要因について、地下約10メートルに埋設された下水道管(1983年設置)の破損が原因と結論付けた。管路内部は酸素が少なく有機物が多い環境。硫化水素が発生しやすく、これが酸素と結合して硫酸となり、管路の腐食を進めた。腐食で生じた管路の隙間から土砂が流出し、地下に空洞が形成された可能性が高いとされている。
県は21年度に管路を点検したが、補修が必要な腐食は確認されていなかった。原因究明委も、当時の点検に問題はなかったとの見解を示している。国の法令では、下水管路については5年に1回以上の定期点検を管理者に義務付けている。陥没の引き金となった管路は事故の3年前に点検されていた。
それでも事故は発生した。マンホールのふたの下で、下水管路とその周囲から漏れる「声なき声」に気付けなかった。下水管路の管理を担う県の北田健夫下水道事業管理者は「事故が起きる前に、最も危険な場所を把握できなかったことが最大の問題だった」と振り返る。
県は仮設排水管を設置し、大量に流れる汚水を迂回(うかい)させながら復旧工事を進めている。破損した管路内部には新管(鋼管セグメント)を設置し、補強と腐食対策を施した。
現場から下水を処理する中川水循環センターまでの約4キロ区間では、抜本対策として既設管に並行して新たな管路を整備する「複線化」を進め、リダンダンシー(冗長性)を確保する計画を検討している。工期は着手後5~7年を見込む。
インフラの維持管理・更新を巡っては、老朽化に加え、管理者側の技術職員の不足、人口減少に伴う料金収入の減少による対策費の確保の難しさ、大雨の頻発と激甚化など、問題が複雑に絡み合っている。
八潮市の事故は下水管路にとどまらず、インフラ全般のマネジメントの在り方を問い直す契機となった。
(次回から2面に掲載)








