人の心が離れる瞬間は、音もなく訪れる。崩れるのはたいてい「信頼」であって、「信用」ではない。信用は履歴書のようなものだ。数字や実績で上書きされる▼あいさつの温度、言葉の裏表、沈黙への配慮。どれか一つでも欠けると、信頼は気づかぬうちに薄くなる。問題は、微妙な異変を感じることができるかどうかだろう▼自分は同じ川を渡っているつもりでも、流れは少しずつ変わる。地図を書き換えないまま車のハンドルを切れば、同乗者は冷たい流れに放り出される。変わったことを脇に置く人ほど、「前と同じだ」と言い張る。だが周囲から見れば、昨日まで通れた橋は既になくなっている▼迷惑し、困惑し、人はやがて距離を取る。そこにあるのは対立ではなく諦め、安心が失われただけである。信頼はガラス細工に似ている。磨けば澄むが、乱暴に扱えば音もなくひびが入る。割れた後で「実績はある」と叫んでも遅い。厳しい話だが、それが現実だ▼変化に鈍感な正しさは、人を失うきっかけになる。信頼は日々の更新でしか守れない。はっと気付いた時には、もう後の祭り。人間関係は、だいたいそうだ。







