◇「Project NINJA」~ナイジェリアのスタートアップ支援~ 世界経済の重心が少しずつ新興国や開発途上国に移動していく状況にあって、アフリカで急速な成長を遂げている大国がある。ナイジェリアは2・3億人(世界銀行、2024年)と世界6位でアフリカ最大の人口を誇り、合計特殊出生率も4・5人(同、23年)と高水準。50年にはインドと中国に次ぐ世界3位の人口規模になる予想もある。 国民の年齢の中央値は約18歳と言われており、人口減少と少子高齢化が進む日本とは対照的だ。国内総生産(GDP)成長率は4・1%(世銀、24年)で、今後も豊富な若い労働力を背景とする人口ボーナスを生かした成長が見込まれている。日本貿易振興機構(ジェトロ)による日系企業のアフリカ注目国ランキングで過去7年間必ず上位3位に入るなど、日本の関心も高い。こうした動きを受け、国際協力機構(JICA)は、ナイジェリアにおける協力重点課題の一つとして、起業支援と日本企業の投資促進に貢献している。 ナイジェリアは、石油産業に依存した産業構造となっている。資源価格変動といったリスクの低減や外貨獲得手段の多様化を実現するには、産業の多角化が課題だった。そこで同国政府は、デジタルネーティブの若い人口を人的資本として、デジタル経済政策・戦略を経済成長の柱の一つと位置付けた。 22年には、デジタル技術を駆使してビジネスを展開するスタートアップを後押しするスタートアップ法も施行している。アフリカで9社しか存在しないユニコーン企業のうち、過半数の5社はナイジェリアの企業。そのうち4社がアフリカの次世代金融インフラをけん引するFlutterwaveやMoniepointといったフィンテック企業だ。スタートアップが集積するナイジェリア最大の経済都市ラゴスのヤバ地区は「ヤバコンバレー」とも呼ばれ、シリコンバレーさながらの活力を誇っている。 一方で、ナイジェリアにおけるスタートアップの自律的な発生と成長を可能にする環境「スタートアップエコシステム」は、政策・制度と実態との乖離(かいり、実施ギャップ)、分断されたネットワーク、インフラ・人材・資金不足など課題も多い。JICAは、それらの課題に取り組むため、20年にProject NINJA(Next Innovation with Japan)を始動させた。 Project NINJAとは、協力対象国におけるイノベーション創出に向け、各国のスタートアップエコシステム強化に取り組む協力事業の総称だ。スタートアップエコシステムは、〈1〉スタートアップをサポートする政策・文化、〈2〉物的・人的・財的リソース、〈3〉ネットワークといった複合的な要素で構成される。 中央政府、自治体、メディア、大学、ベンチャーキャピタル(VC)、銀行、非政府組織(NGO)、開発協力機関、開発金融機関、経営や技術面の助言を通して、スタートアップの育成や成長を支援するインキュベーターやアクセラレーターといったプレーヤーがそれらの要素を担っている。 JICAは、Project NINJAを各国で展開しているが、中でも力を入れているのがナイジェリアであり、これまでは、スタートアップエコシステムのうち、スタートアップ育成制度や提供サービスの向上、起業家やスタートアップエコシステム関係者の人材開発、イベントやセミナーを通じたネットワーク強化といった要素を中心に協力を展開してきた。 一方、ナイジェリアの多くのスタートアップが、慢性的な資金不足に関連するリスクに直面している。特に成長ステージや分野による資金供給の偏り、急激な為替変動などの不安定なマクロ経済に起因する成長鈍化、株式上場や売却による収益であるキャピタルゲイン創出機会の不足といった課題に悩まされている。そうした課題に対応すべく、JICAは初めての取り組みに着手しようとしている。 JICAがナイジェリアで新たに始める取り組みは「社会課題に取り組むスタートアップ企業を支援する環境整備計画」(通称ナイジェリアNINJAファンド)だ。ナイジェリアソブリン投資機構(NSIA)と共に、ナイジェリア国内でVCファンドを設立の上、共同で資金を拠出し、NSIAを通じて、有限責任組合員(LP)として同ファンドへ出資を行う。この取り組みはJICAの資金を呼び水に、NSIAや、他の投資家の資金を呼び込み、開発インパクトを増幅させる設計だ。 ナイジェリアNINJAファンドは、ナイジェリアのスタートアップエコシステムの課題に取り組むため、投資を行う民間のVCファンドとは異なる特徴を持っている。まず、ファンドの投資方針として、民間VCの資本が集中しにくい成長ステージや分野に分布するスタートアップを対象としている。成長ステージについてはシードからアーリー期など起業後初期までの段階、分野としては農業、教育、保健、環境などをターゲットとしている。 アフリカの民間VCは一般的に国外で登記し、ドル建てで投資を行うが、ナイジェリアNINJAファンドは、ドル以外に現地通貨のナイラ建ての投資も可能な設計だ。特に、立ち上げからシード期までのスタートアップは初期資金として現地通貨のニーズが大きいケースも少なくなく、それに対応する狙いだ。 ナイジェリアNINJAファンドの最大の特徴は、ファンドによるスタートアップへの投資と合わせて、JICAの技術協力を通じて同国スタートアップ向け資本・金融市場自体の開発にも取り組む点だ。民間資金動員・証券市場発展を目的として、機関投資家、証券取引所、規制当局といったプレーヤーとともにワーキンググループを形成。ナイジェリア国内資本の還流や、スタートアップのキャピタルゲイン創出機会の多様化に向けた意見を集約し、すぐに取り組み可能な活動は他のJICA事業との連携などを通じて実行に移す予定だ。 JICAがナイジェリアと共に始める挑戦は、同国の雇用創出や産業多角化、経済発展だけでなく、同国でビジネスを始める日本企業の後押しにもなる。日本を含む外資系企業が進出するには、現地の商習慣に通じ、消費者や企業と密接につながっている現地企業をパートナーとして据えることが不可欠。ナイジェリアNINJAファンドはパートナー候補企業の母数を増やし、日本企業が情報にアクセスしやすくすることも狙っている。 (経済開発部民間セクター開発グループ第二チーム 津田孝太)






