国際協力機構(JICA)は、国内企業が持つ技術力や課題解決力が開発途上国の社会課題解決に貢献し得る点に着目し、2009年から民間企業と連携した事業を進めており、自社の技術やノウハウを生かして途上国での成長とマーケット拡大を目指す企業と協力している。中でも「中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)」は、企業単独ではリスクや負担の大きい初期調査や実証段階を、資金面のみならずJICAならではの現地ネットワークや知見を最大活用して後押しする枠組みだ。 新潟県阿賀野市に本社を置くバイオテックジャパン(江川穰社長)も、JICA Bizをステップとしフィリピン進出に挑戦した企業の一つだ。植物系乳酸菌の働きで米に含まれるたんぱく質の量を低減させる同社の「低たんぱく米」は、慢性腎臓病(CKD)患者向け商品として国内で確かな地位を築いてきた。一方、江川社長は「新薬も出てきて、国内市場はいずれ先細りになると感じていた」と当時を振り返る。そのような中、アジア各国からの問い合わせの増加をきっかけに海外進出を検討し、進出先に選んだのがフィリピンだった。 同国では米の1人当たりの消費量が日本の2倍以上と米食文化が根付く一方、低たんぱく米は流通しておらず、食事療法が難しかった。CKDは症状が悪化すれば透析や移植といった高額な医療が必要になるが、貧困層にとっては現実的な選択肢ではない。進出に際して相談したJICAフィリピン事務所からJICA Bizを紹介され、応募したところ14年に見事採択。現地の腎臓医からは「こういうご飯がほしかった」と歓迎を受けた。 同社は、JICAが長年支援してきたフィリピン稲作研究所(フィルライス)とタッグを組み、現地米を使った低たんぱく米の製造や技術移転に取り組んだ。併せて、食品栄養研究所(FNRI)と食事療法ガイドブックや低たんぱく食レシピブックを共同作成し、個人レベルでの食事療法実践も後押しした。 「現地調査の際、JICAのプロジェクトだと言うと信用度が全く違い、おかげでいろいろな方とネットワークを広げることができた。本来なら簡単には会えないような方々と同志のように一緒に仕事ができて楽しかった」と江川社長は語る。日本企業単独で現地の公的機関等関係者と連携することは信頼形成の面でハードルが高い中、JICAが長年培ってきた信頼関係はこうした実務レベルの共創を支える基盤となっている。 もっとも、海外事業の道のりは平たんではなかった。調査期間を終えた後、黒字化に向けて試行錯誤を重ねていた同社は、現地にパックご飯を製造する会社が存在しないことを知った。日本では価格競争面で大手にかなわず、ニッチな付加価値で勝負してきた同社にとって、パックご飯が価値になるというのは目からうろこだった。 以後、パックご飯やチョコレート粥(かゆ)など現地の嗜好(しこう)に合わせた商品開発で事業を多角化して支え、JICAフィリピン事務所もショッピングモールなどでのJICA Biz商品販促活動を企画し共に現地に売り込んだ。 試行段階では、電力供給の不安定さや水質の違いにも苦労したという。国内事業と並行する中、英語があまり話せない若手社員も現地出張に送り出した。「課題をどう乗り越えるかと常に考えて動いた経験から、若手の意識が一気にベンチャー志向へ傾き、その後の国内事業にも良い影響があった」と江川社長は振り返る。海外事業は難しさを伴う一方で、企業の競争力や組織力を底上げする契機にもなり得る。 同社は海外事業と並行して、日本国内でも社会課題解決に取り組んでいる。海外展開する前から、非常用の白飯や低たんぱく米による災害時の食支援にも貢献しているが、ここ数年は過疎地域である阿賀野市笹神地区の就農支援事業で生産された米を活用したパックご飯製造や日本酒づくりを通じ、自治体や地域企業との共創による地域活性化にも尽力している。さらには、新潟大学工学部のJICA連携特別講座において、フィリピンで感じた異文化下でのビジネスの難しさや学びを学生に伝え、地域の未来となる次世代の育成にも寄与している。 バイオテックジャパンのように、JICAの民間連携制度の活用、JICAの後ろ盾を得て開拓した現地パートナーとの共創によって、日本の革新的技術が世界に広がり、企業、国際社会、日本国内に新たな価値を生み出す事例は増え続けている(実績は「JICA採択事業検索」で公開)。 自社の強みが役に立つ場所を広い視点で捉え直したとき、その答えが国内外の意外なところに存在していると気付く企業も少なくないだろう。JICAは全国15カ所に設置されている国内拠点と本部の民間連携事業部で、こうした可能性を探る多くの企業と協働・共創を積極的に追求している。 (東京センター市民参加協力第一課専門嘱託 浪川真祐子)







