多様で豊かな文化や自然が魅力の南米ペルー。外国人観光客数は年間約320万人、国内旅行者数は約4400万人に達する。観光セクターは国内総生産(GDP)の2・9%を占め、約130万人の雇用を支える同国の重要産業だ(データは2024年時点)。世界遺産であるマチュピチュは、外国人観光客の約3分の1が訪問し、観光経済を支える重要な資源であり、日本と長年にわたる歴史的なつながりを持つ特別な存在でもある。 一方で、自然災害や観光客の増加などに伴って劣化が各所で進み、入場者数の制限、遺跡内のルート分割と一方通行のルール設定、立ち入り禁止区域の拡大などの管理措置を余儀なくされ、文化遺産の保全と観光振興の両立が国家的な重要課題となっている。また、マチュピチュ周辺にも未発見の遺跡が存在すると目されてきたが、当該地域は標高差の大きい急峻(きゅうしゅん)な山岳地形と高密度の森林に覆われ、十分な調査が実施困難であった。 こうした中、国際協力機構(JICA)は同国文化省、ふたば(福島県富岡町、遠藤秀文社長)と連携し、マチュピチュとその周辺で、ドローン搭載型LiDAR(ライダー)を活用した、高精度3D測量解析を25年2月~27年1月の予定で実施している。 これまでの具体的な成果として、マチュピチュ遺跡の現状を正確に記録することで、経年劣化や崩壊などによる形状変化を分析し、データに基づく効率的・効果的な保全計画の策定・実施を可能にした。また、森林の3Dデータ上で地表面の形状をつまびらかにすることで、実際に森林を伐採し自然や生態系を破壊せず、マチュピチュ遺跡北東部に広がる大規模段々畑群「アンデネスオリエンタレス」で、木々に覆われ視認が困難だった全体像を初めて把握することに成功した。 さらに、同じく密林下で調査が進んでいなかったマチュピチュ遺跡北側の「月の神殿」付近では、L字型の壁状構造(高さ約2・7メートル)や左右対称の3段の畑、人によって加工されてつくられた可能性がある直方体の石材など、複数の特徴的な遺構候補を新たに確認した。 このように、未発見の遺跡が明らかになることで、単なる学術的成果にとどまらず、将来的には観光経済の恩恵の周辺住民への拡大や、観光動線の多様化を通じたマチュピチュ遺跡への過度な集中緩和(滞在時間の長期化抑制)などにつながることが期待される。加えて、取得した遺跡や地形のデータの活用で、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を通じた観光プロモーション、文化遺産保全に向けた啓発活動、災害ハザードマップの作成などが可能となり、文化遺産活用の幅が広がっている。 こうしたJICAの協力の背景には、日本とペルーの長年の信頼関係がある。1948年にマチュピチュ村の初代村長に任命された日系移民の野内与吉氏は福島県大玉村の出身で、水道や電力整備、ホテル建設などマチュピチュ村の基盤づくりに大きく貢献した。野内氏の功績は現在もペルーで高く評価されており、この縁を契機に、大玉村とマチュピチュ村は2015年に友好都市協定を締結した。 また、大玉村は11年の東日本大震災の際、原発事故で避難を余儀なくされた富岡町から多くの町民を受け入れた。大玉村に深い感謝の念を抱いていた富岡町出身の遠藤社長は、「自社の3D測量解析技術を生かして大玉村とマチュピチュ村の友好関係を促進することで大玉村に恩返ししたい」と思うようになった。 この構想がJICAに持ち込まれ、JICAがこれまでペルー政府と築いてきた信頼関係をもとに、JICA職員が関係者間の合意形成を主導する形で今回の協力が結実した。25年10月の大玉村とマチュピチュ村の友好都市10周年行事で調査の進捗・成果を報告し、両村長から謝意と高い評価が寄せられ、押山利一大玉村長は「本調査が両村の懸け橋に花を添えた」と語った。 ふたばは、東日本大震災後に原発事故の影響で人の立ち入りが困難になった地域の姿を後世に伝えるため、町並みや地形を記録・保存する3Dアーカイブの取り組みを行ってきた。その過程で、人が立ち入れない環境下でも効率的にデータを取得するための飛行計画の設計や、取得した膨大なデータを解析して高精度な3Dモデルを構築する技術を磨いてきた。こうした日本国内で培われた知見と技術が、マチュピチュでの調査に生かされている。 マチュピチュでの取り組みは、日本の技術を一層進化させる契機にもなっている。高山帯でのドローン飛行計画の最適化や、樹冠密度・高度差・岩稜地形に応じた計測・解析ノウハウの蓄積などは、日本国内の森林管理や急傾斜地の防災、雪崩・地滑り対策、山火事予測、盛り土の監視、山岳地帯のインフラ点検、さらには森林内に埋もれた山城などの遺跡調査、幅広い分野での活用が見込まれている。 JICAは、日系人をはじめとする先人が築いてきた信頼の上に立ち、これからも日本とペルーの社会・経済発展に寄与する協力を推進していく。 (中南米部南米課 木村明広)







